全 情 報

ID番号 08978
事件名 休業補償給付不支給処分取消請求事件
いわゆる事件名 国・中央労働基準監督署長(メルシャン)事件
争点 職場におけるネグレクトと上司の叱責による精神障害の発症が業務上災害に該当するかが争われた事案(労働者敗訴)
事案概要 (1) 原告は、原告に発症した精神障害(うつ病)が、本件メルシャン(株)及びメルシャンフィードにおける業務に起因するとして、処分行政庁に休業補償給付を請求したが、不支給処分をしたので、東京労働者災害補償保険審査官に審査請求をし、更に、労働保険審議会に再審査請求をしたが、両者とも請求を棄却したため、本件訴えを提起したもの。
(2) 東京地裁は、本件処分に違法はないとして請求を棄却した。
参照法条 労働者災害賞保険法7条
労働基準法75条
体系項目 労災補償・労災保険/業務上・外認定/業務起因性
裁判年月日 2014年10月9日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成24年(行ウ)762号
裁判結果 棄却
出典 労働判例1110号70頁
審級関係 控訴
評釈論文
判決理由 労働者の傷病等を業務上のものと認めるためには、業務と当該傷病との間に条件関係があることを前提としつつ、両者の間に法的にみて労災補償を認めるのを相当とする関係、すなわち相当因果関係が認められことが必要である(最高裁昭和51年11月12日第二小法廷判決・裁判集民事119号189頁参照)。
上記の相当因果関係を認めるためには、当該傷病等の結果が、当該業務に内在する危険が現実化したものであると認められることが必要である(最高裁平成8年1月23日第三小法廷判決・裁判集民事178号83頁、最高裁平成8年3月5日第三小法廷判決・裁判集民事178号621頁各参照)。
今日の社会において、何らかの固体側の脆弱性要因を有しながら業務に従事する者も少なくない実情があることからすれば、何らかの固体側の脆弱性を有しながらも、当該労働者と職種、職場における立場、経験等の点で同種の者であって、特段の勤務軽減まで必要とせずに通常業務を遂行できるという意味での平均的な労働者にとって、当該労働者の置かれた具体的状況における心理的負荷が、客観的に精神障害を発病させるに足りる程度のものであるといえる場合には、業務と当該精神障害発病との間の相当因果関係を認めるのが相当である。
原告が主張する業務による心理的負荷は、そもそもこれに該当する出来事が存在しない(N工場の閉鎖に伴う異動の際の退職勧奨、メルシャンフィード出向中のネグレクト)か、あるいは、出来事自体は存在する(品質保証部在籍中のAによる叱責)としても、平均的な労働者にとって、原告の置かれた具体的状況における心理的負荷が、客観的に精神障害を発病させるに足りる程度の強度のものとは評価できないというべきである。
原告の人事評価が低位のものになっているとしても、そのことから上記各出来事間の関連性が導かれるものとはいえず、既述した個々の出来事についての評価・判断に加えて別異の検討が必要になるとは認め難い。
したがって、その余の点について判断するまでもなく、原告の業務と原告の精神障害発病との相当因果関係(業務起因性)を認めることはできない。