全 情 報

ID番号 08981
事件名 遺族補償不支給処分取消請求事件
いわゆる事件名 国・八王子労働基準監督署(東和フードサービス)事件
争点 喫茶店にアルバイトとして採用された後店舗責任者に就任した者の精神障害による死亡が業務上災害に該当するかが争われた事案(原告勝訴)
事案概要 (1)原告(X)の子(A)が、会社における過重な労働が原因で精神障害を発症し、あるいは、会社に就職する前から発症していた精神障害が著しく悪化し、その結果自殺したものであるとして、労基署長に対し、業務上の疾病に該当するとして遺族補償給付などの給付を求めたところ、処分行政庁が支給しない旨の処分をしたため、その取消しを求め提訴したもの。
(2) 東京地裁は、処分行政庁のした不支給処分が違法であるとして、Xの請求を認容した。
参照法条 労働者災害補償保険法7条
労働者災害補償保険法12条の8
労働基準法75条
労働基準法79条
労働基準法80条
体系項目 労災補償・労災保険/業務上・外認定/業務起因性
裁判年月日 2014年9月17日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成24年(行ウ)133号
裁判結果 認容
出典 労働判例1105号21頁
労働経済判例速報2230号3頁
裁判所ウェブサイト掲載判例
審級関係
評釈論文 慶谷典之・労働法令通信2365号16~17頁2014年10月28日
判決理由 亡Aが業務に起因して精神障害を発症した場合には、その後の自殺について、原則として業務起因性があるものと認められる。
認定基準は、既に発病している精神障害が悪化した場合の業務起因性について、「特別な出来事」に該当する出来事があることを業務上の疾病として取り扱う前提としており、(中略)「特別な出来事」が存在しなければ、健常者であれば、業務上の疾病であることが認められることになる個々の具体的な出来事であって心理的負荷の程度が「強」となるものが幾つあったとしても、業務上の疾病とは認められないという判断枠組みを採用している。
認定基準が検討会報告書の持つ内容的な合理性を引き継ぎ、かつ、精神障害の症状が安定していて通常の勤務を行うことのできる者の社会的活動を適切に確保し保護するという観点から、認定基準の「治療が必要な場合」には、「精神障害で長期間にわたり通院を継続しているものの、症状がなく(寛解状態にあり)、または安定していた状態で、通常の勤務を行っていた者」を含まないものとする限定解釈を加えたうえで、「安定していた状態」であるか否かを具体的事案に即して判断することが相当である。
本件精神障害の症状は、平成18年12月の時点では、「精神障害で長期間にわたり通院を継続しているものの、安定していた状態で、通常の勤務を行っていた者」に当たる状況にあったとみることが相当である。
以上を踏まえて、以下では、「業務以外の原因により発病して治療の必要な状態にある精神障害が悪化した場合」ではなく、通常の場合の認定基準に則して、亡Aの従事した業務の過重性について、検討することとする。
亡Aがメイトから本件店舗の店舗責任者に就任し、店舗責任者としての業務に従事したことについては、「過去に経験したことがない仕事内容に変更となり、常時緊張を強いられる状態」に当たると認めることができ、心理的負荷の評価は「強」となるものである。
「会社の経営に影響するなどの重大な仕事上のミスをし、事後対応にも当たった」ことに準ずる心理的負荷があったというべきであり(認定基準はあくまでも具体例を挙げるものである。)、その心理的負荷の程度は、「強」に当たるものというべきである。
亡Aについては、認定基準別表1における心理的負荷の強度が「強」に該当する業務上の出来事が二つ、「中」に該当する出来事が二つ、「弱」に該当する出来事が二つ存在するのであるから、これらを全体評価すると、業務による強い心理的負荷の存在を認めることができる。
したがって、亡Aは、業務による強い心理的負荷によって、安定した状態にあった本件精神障害を増悪させたことが認められるのであり、そのことは、認定基準上、業務による強い心理的負荷によって精神障害を発症し、自殺するに至ったものと評価されるべきこととなる。
亡Aが本件精神障害を悪化させたこと及びその後自殺したことについては、本件精神障害の状態をもって、「精神障害で長期間にわたり通院を継続しているものの、症状がなく(寛解状態にあり)、または安定していた状態で、通常の勤務を行っていた者の事案」として「業務以外の原因により発病して治療が必要な状態にある精神障害が悪化した場合」には該当しないと解しても、「業務以外の原因により発病して治療が必要な状態にある精神障害が悪化した場合」に該当すると解しても、いずれにしても業務に起因するものであると認めるのが相当である。