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ID番号 09043
事件名 分限免職処分取消等請求事件
いわゆる事件名 社会保険庁事件
争点 社会保険庁職員に対する分限免職処分の有効性が問われた事案(労働者敗訴)
事案概要 (1)  社会保険庁(以下「社保庁」という。)の職員である原告Xらが、平成21年12月25日付けで、国家公務員法(以下「国公法」という。)78条4号(「官制若しくは定員の改廃又は予算の減少により廃職又は過員を生じた場合」)に基づき同月31日限りで分限免職する旨の各処分を受けたため、本件各処分は、国公法78条4号の要件に該当せず、仮に同号の要件に該当するとしても、民間における整理解雇4要件を満たしていないから、裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用した違法なものであると主張して、本件各処分の取消しを求めるとともに、社保庁長官等が本件各処分をしたことが国家賠償法(以下「国賠法」という。)上の違法行為に該当すると主張して、被告Y(国)に対し、同法1条1項に基づき、慰謝料の支払を求め提訴したもの。
(2) 大阪地裁は、裁量権の逸脱濫用があったとはいえずXらの請求をいずれも棄却した。
参照法条 日本国憲法28条
日本国憲法73条
国家賠償法1条
労働契約法16条
国家公務員法78条
体系項目 :解雇(民事)/整理解雇/整理解雇の必要性
解雇(民事)/整理解雇/整理解雇の回避努力義務
解雇(民事)/整理解雇/整理解雇基準・被解雇者選定の合理性
解雇(民事)/整理解雇/協議説得義務
労基法の基本原則(民事)/国に対する損害賠償請求/国に対する損害賠償請求
裁判年月日 2015年3月26日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成23年(行ウ)第181号
裁判結果 棄却
出典 訟務月報62巻1号67頁
審級関係 控訴
評釈論文
判決理由 〔解雇(民事)-整理解雇-整理解雇の必要性〕
〔解雇(民事)-整理解雇-整理解雇の回避努力義務〕
〔解雇(民事)-整理解雇-整理解雇基準・被解雇者選定の合理性〕
〔解雇(民事)-整理解雇-協議説得義務〕
〔労基法の基本原則(民事)-国に対する損害賠償請求-国に対する損害賠償請求〕
 国公法78条に規定する分限免職処分については、同法27条、74条1項及び108条の7並びに人事院規則11-4第2条及び第7条4項に基づき、平等原則、公正基準及び不利益取扱い禁止に違反してはならないというほかは特段の法令上の制約は存在せず、同法78条各号の要件を満たす場合には、これらに違反しない限り、任命権者は分限免職処分をすることができるのが原則である。
 しかしながら、国公法78条4号に基づく分限免職処分は、被処分者には何ら責められるべき事由がないにもかかわらず、その意思に反して免職という重大な不利益を課すものであるとともに、上記のとおり、任命権者には同処分をするか否かについての裁量権が認められていることからすれば、任命権者において、同処分を回避することが現実に可能であるにもかかわらず、同処分を回避するために努力すべき義務(分限回避義務)を履行することなく同処分をした場合には、当該処分は、任命権者が有する裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして、違法なものになるというべきである。(中略)
 いわゆる整理解雇4要件(4要素)は、労働契約関係における解雇権濫用法理(労働契約法16条)にその基礎を有するものであって、上記1(2)イで述べたとおり、憲法の規定する行政の民主的統制の要請を受けた国公法に基づく任用関係にある国家公務員に適用する基礎を欠くものである(同法22条1項参照)。
 また、実質的に考えても、整理解雇4要件(4要素)とは、一般に、〈1〉人員削減の必要性、〈2〉解雇回避努力の有無、〈3〉人選の合理性、〈4〉手続の妥当性を総合的に考慮して、解雇権濫用の有無を判断するという判断枠組みを指すところ、国公法78条4号に規定する分限免職処分においては、同法自体が、同号に規定する場合には、〈1〉の人員削減の必要性が存在することを法定しているものといえるし、〈3〉の人選の合理性及び〈4〉の手続の妥当性についても、それぞれ同法78条及びこれを受けた人事院規則11-4第7条4項や同法89条等による定めが存在するから、同法78条4号に基づく分限免職処分について、整理解雇4要件(4要素)に基づいてその違法性を判断することが適切であるとはいえない。(中略)
 社保庁長官等において、本件各処分をするに当たり、現実に可能な分限回避義務の履行を怠ったり、また、厚労大臣が分限回避義務の履行を怠っているのを漫然と放置したりしたということはできず、社保庁長官等が本件各処分をしたことが裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものということはできない。(中略)
 社保庁長官等及び厚労大臣が、社保庁職員に対する分限回避措置を採るに当たって、不平等又は不公正な取扱いをしたものということはできない。(中略)
 国家公務員に対する分限免職処分には行手法の適用はないところ(同法3条1項9号)、国公法上、同処分については、処分の事由を記載した説明書の交付(89条)のみが手続要件とされており、被処分者に対する告知及び聴聞の機会の付与並びに職員団体との協議は、その手続要件とされていないし、憲法31条に基づき、これらの手続が求められるものとも解されない。
 そうすると、本件各処分に当たって、上記の被処分者に対する告知及び聴聞並びに職員団体との誠実な協議がされなかったとしても、本件各処分が違法なものとなるとはいえない。
 社保庁長官等が本件各処分(X5ら3名に対するものを除く。)をしたことについて、裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものであるということはできないから、これらの処分はいずれも適法なものというべきである。(中略)
 本件各処分は適法であるから、社保庁長官等がこれをしたことが国賠法上の違法行為に該当しないことは明らかである。