全 情 報

ID番号 09060
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 日産自動車ほか1社事件
争点 派遣法違反の場合の派遣先と派遣労働者との間の労働契約の成否等が問われた事案(労働者敗訴)
事案概要 (1) 派遣元である被告Y2(アデコ)との間で期間の定めのある労働契約を締結し、その更新を重ねながら、派遣先である被告Y1(日産)において就労していたXが、〈1〉XとY2との間の労働契約及びYら間の労働者派遣契約は偽装された無効なものであり、XとY1との間には直接の労働契約が黙示のうちに成立しているとして、仮にそうでないとしても、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(平成24年法律第27号による改正前の題名は「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律」。同改正前の同法を以下「労働者派遣法」という。)40条の4及び40条の5の各規定によってXとY1との間に労働契約が成立しているとして、Y1に対し、期間の定めのない労働契約上の地位確認(第1の1)並びに賃金及びこれに対する遅延損害金の支払(第1の2)を求め、〈2〉Yらの職業安定法違反及び労働者派遣法違反等の違法行為につき、Yらに対し、連帯して、不法行為に基づく損害賠償金として、逸失利益、慰謝料及び弁護士費用並びにこれらに対する遅延損害金の支払を求め(第1の3)、〈3〉XとY2との間の労働契約及びYら間の労働者派遣契約が上記のとおり無効であることから、Y2はXがY1に派遣され就労していた期間、Y1ら支払を受けた派遣代金額から、Y2がXに対して支払った賃金額を控除した額につき、Y2に対し、不当利得返還請求権に基づき上記差額及びこれに対する遅延損害金の支払を求め提訴したもの。
(2) 東京地裁は、XとY1との労働契約の成立、およびYらの不法行為の成立を否定して、Xの請求をいずれも棄却した。
参照法条 労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律40条の4
労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律40条の5
民法709条
体系項目 労働契約(民事)/成立/成立
労基法の基本原則(民事)/労働者/派遣労働者・社外工
労基法の基本原則(民事)/使用者/派遣先会社
労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/使用者に対する労災以外の損害賠償請求
裁判年月日 2015年7月15日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成21年(ワ)33221号
裁判結果 棄却(確定)
出典 労働判例1131号52頁
労働経済判例速報2261号9頁
審級関係
評釈論文 慶谷典之・労働法令通信2396号24~25頁2015年9月28日
判決理由 〔労働契約(民事)/成立/成立〕
〔労基法の基本原則(民事)/労働者/派遣労働者・社外工〕
〔労基法の基本原則(民事)/使用者/派遣先会社)〕
2 XとY1との間の労働契約の成否について
(1) 黙示の労働契約の成否について
ア まず、労働者派遣法2条1号にいう労働者派遣に該当する場合には、たとえ同法違反の事実があったとしても、その事実から当該労働者派遣が職業安定法4条6項にいう労働者供給に該当することにはならないというべきである。また、労働者派遣法の趣旨及びその取締法規としての性質等に鑑みれば、仮に同法違反の労働者派遣が行われた場合においても、特段の事情のない限り、そのことだけによって派遣労働者と派遣元との間の労働契約が無効になることはないというべきである(最高裁平成21年12月18日第二小法廷判決・民集63巻10号2754頁参照)。
 Xは、XとY2との間の労働契約、Yら間の労働者派遣契約が、職業安定法44条に違反し無効であることを前提として、XとY1との間の黙示の労働契約の成立を主張しているところ、本件における事実関係の下で上記特段の事情が存在するといえるか、XとY1との間で、黙示の労働契約の成立が認められるかについて検討する。(中略)
カ 以上検討したところによれば、XとYらとの間の法律関係は労働者派遣法2条1号にいう労働者派遣にほかならず、職業安定法4条6項にいう労働者供給には該当しない。また、XとY2との契約関係は実体を伴ったものであって、これを無効とすべき特段の事情は見当たらないところである。そして、Xについて、Y2との間の関係と並列的に、Y1との間の直接の雇用関係の成立を認めるべき根拠となるような事情は見当たらないというべきである。かえって、Y1の休業期間中とはいえ、Xが、Y2からY1以外の派遣先の紹介を受け、就労していた事実は、Y1との間に直接の雇用関係が存在することを前提とせず、Y2からの労働者派遣という法律関係の枠内で就労を継続していたことを裏付けるものであって、XとY1との間で黙示の労働契約の成立を認める余地はないというべきである。
(2) 労働者派遣法40条の4及び40条の5の規定による労働契約の成否について
 労働者派遣法40条の4は、専門26業務以外の業務を行う派遣労働者につき、派遣可能期間を超えて役務の提供を受けようとする派遣先に、直接労働契約の申込みをすることを義務付けるものであり、同法40条の5は、専門26業務等を行う派遣可能期間の制限を受けない派遣労働者につき、3年を超えて役務の提供を受けている派遣先に、同じ業務を従事させる目的で直接労働者を雇い入れようとするときは、まず、当該派遣労働者に対する労働契約の申込みをすることを義務付けるものである。これらの規定は、派遣労働者の継続的な雇用の安定・確保を目的とするものであるとはいえ、派遣労働者の派遣先と派遣労働者との間の労働契約はもとより、派遣先の申込みの意思表示についても、一定の条件の下で、その成立・存在を擬制する旨の規定とはなっておらず、労働者派遣法の取締法規としての性質も勘案すると、同法上の指導、助言、監督及び公表という行政上の措置を通じて、間接的に派遣先に義務の履行を促し、これらの規定の実効性を確保することが予定されているものと解すべきである。Y1がXに対する労働契約の申込みをした事実がないことは争いがないから、これらの規定を根拠として、XとY1との間の労働契約の成立を認めることはできない。
 (3) 小括
 以上によれば、XとY1との間で直接労働契約が成立したものとみる余地はなく、その余の点について判断するまでもなく、XのY1に対する地位確認の請求及び賃金の支払請求は理由がない。
〔労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/使用者に対する労災以外の損害賠償請求〕
3 Yらによる不法行為等の成否について
(1) Y1の不法行為
 ア XのY1本社での実際の業務内容が5号業務に当たらないのに、これに当たるものとして、労働契約・労働者派遣契約を締結し、本来の派遣可能期間を超えてXの役務の提供を受け入れるなど、Yらに労働者派遣法に違反する行為があったことは既に判断したとおりである。しかし、(中略)同法35条の2第2項の通知を受けた派遣先であるY1が、引き続き派遣労働者であるXを使用しようとするときは、同法40条の4の規定に基づき、Y1での雇用を希望するXに対して労働契約の申込みをしなければならないものとされており、この申込みがあったときは、XとY1との間で労働契約の成立に至るものと考えられるが、Y1がこの申込みをしなかったときの法律上の効果、労働契約の成否は上記2(2)で述べたとおりであって、当然に労働契約の成立に至るものではなく、したがって、Xにおいてその点を法律上当然に期待できるものでもないから、XとY1との間で、直接雇用契約が成立した場合を念頭に置いた逸失利益の請求(前記第2の3(1)キ(ア))には理由がなく、慰謝料請求(同(イ))についても上記雇用契約の成立が認められるべきことを前提とする限りやはり理由がないというべきである。(中略)
(2) Y2の不法行為等
 ア Y2による労働者派遣法違反がなかったとしても、XのY1による直接雇用、その他雇用の継続が当然期待できる地位にあったといえないことは既に判断したとおりであるから、Xがそうした地位にあったことを前提としたY2に対する請求には理由がない。(中略)
 XのYらに対する不法行為に基づく損害賠償請求及びY2に対する不当利得返還請求は、いずれも理由がない。