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ID番号 09067
事件名 地位確認事件、賃金支払請求事件、損害賠償請求控訴事件
いわゆる事件名 日産自動車ほか(派遣社員ら雇止め等)事件
争点 更新を繰り返してきた派遣社員の派遣先との雇用関係と派遣元の雇止めの有効性等が争われた事案(労働者敗訴)
事案概要 (1) 原告(X1、X2)は被告日産自動車(株)(Y1)を派遣先、被告テンプスタッフ・テクノロジー(株)(Y2)を派遣元とする派遣労働者として勤務していた者であるが、Y1との間で労働契約が成立しているとして、労働者たる地位確認等を求め提訴したもの。
原告(X3、X4)は被告日産車体(株)(Y3)に期間労働者として就労していたところ、Y3の雇止めは無効であるとして労働者たる地位確認等を求め提訴したもの。
原告(X5)は、被告プレミアライン(株)(Y4)を派遣元として、当初Y1を、その後はY3を派遣先として就労していたところ、Y1との間で労働契約が成立しているとして賃金支払等求め提訴したもの。
(2) 横浜地裁は、派遣先との労働契約の成立を否定し、雇止めについても客観的合理性及び社会通念上の相当性を欠くものということはできないとしたため、Xらが控訴したところ、東京高裁は原判決を維持し、Xらの控訴を棄却した。
参照法条 民法90条
民法96条
民法623条
民事訴訟法135条
労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律40条の2
労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律40条の4
労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律40条の5
労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律42条
職業安定法44条
労働契約法16条
労働基準法6条
体系項目 解雇(民事)/短期労働契約の更新拒否(雇止め) /短期労働契約の更新拒否(雇止め)
労基法の基本原則(民事)/労働者/派遣労働者・社外工
労基法の基本原則(民事)/使用者/派遣先会社
労働契約/労働契約上の権利義務/使用者に対する労災以外の損害賠償
裁判年月日 2015年9月10日
裁判所名 東京高
裁判形式 判決
事件番号 平成26年(ネ)2672号
裁判結果 控訴棄却
出典 労働判例1135号68頁
審級関係 一審 平成26年3月25日/横浜地方裁判所/第7民事部/判決/平成21年(ワ)2214号
上告、上告受理申立
評釈論文
判決理由 〔労基法の基本原則(民事)/労働者/派遣労働者・社外工〕
〔労基法の基本原則(民事)/使用者/派遣先会社〕
〔労働契約/労働契約上の権利義務/使用者に対する労災以外の損害賠償〕
 ア 労働者派遣契約及び派遣労働契約の有効性について
(ア) 労働者派遣法が、労働力の需給の適正な調整を図るため労働者派遣事業の適正な運営の確保に関する措置を講じるとともに、派遣労働者の保護等を図り、もって派遣労働者の雇用の安定その他福祉の増進に資することを目的とする行政上の取締法規であることを踏まえれば、仮に、労働者派遣法に違反する労働者派遣が行われた場合においても、特段の事情のない限り、そのことから直ちに派遣労働者と派遣元の間の雇用関係が無効になるものではないというべきである。(中略)
 X1及びX2が主張する内容は、いずれも、前記のような実体を伴ったX1及びX2とY2の間の派遣労働契約を無効と解すべき特段の事情に当たるものではなく、前記判断を左右するものではない。(中略)
イ 黙示の労働契約の成否について
 派遣労働者と派遣先の間に、それぞれ労働契約を成立させる意思の合致があったと認められて、黙示の労働契約が成立するか否かについては、派遣労働者及び派遣先の就労当時の認識を前提としつつ、派遣元の企業体としての独自性の有無、派遣労働者と派遣先の間の事実上の使用従属関係、労務提供関係及び賃金支払関係の実情等を検討して決すべきものである。(中略)
 X1及びX2とY1の間において黙示の労働契約が成立していたことを基礎付けるに足りる事情があるとはいえないことは、前記判断のとおりである。(中略)
ウ 不法行為の成否について
 労働者派遣法が、労働力の需給の適正な調整を図るため労働者派遣事業の適正な運営の確保に関する措置を講じるとともに、派遣労働者の保護等を図り、もって派遣労働者の雇用の安定その他福祉の増進に資することを目的とする行政上の取締法規であることを踏まえれば、仮に、同法に違反する事実が認められたとしても、そのことから直ちに派遣労働者の個々具体的な法律上保護されるべき利益が損なわれたものとみることはできない。(中略)
(3) X5の補充主張(第2の2(2)ウ)について
 ア 労働者派遣契約及び派遣労働契約の有効性について(中略)
 労働者派遣法は、派遣労働期間の制限を定め、この制限に係るクーリング期間を設定しているところ、同法が平成24年10月1日に改正されたことによって離職後1年以内の労働者派遣が禁止されるまでは、派遣就労先において期間労働者として就労していた者を再び派遣労働者として雇用することを禁止する定めはなかったこと、また、クーリング期間中に派遣労働者を直接雇用することを禁止する定めもないことに照らせば、このような運用を行った場合に期間従業員に対する雇止めが有効となるか否かなどの点については別途検討されるべきであるとしても、このような扱いが当時の労働者派遣法の派遣期間制限に直接違反するものとはいえず、当時の労働者派遣法の潜脱を目的とするものであるとまでいうことができないことは、前記判断のとおりであるから、Y1とY2の間の労働者派遣契約及びX5とY2の間の派遣労働契約が、公序良俗に違反して無効であると認めることはできない。
 したがって、労働者派遣契約及び派遣労働契約の効力に関するX5の前記主張は採用することができない。
イ 黙示の労働契約の成否について
 Y1とY2の間の労働者派遣契約及びX5とY2の間の派遣労働契約が、公序良俗に違反して無効であるとは認められず、Y1とX5の間で黙示の労働契約が成立したとも認められないこと、また、Y3がY2との労働者派遣契約を契約期間の途中で解除したのは、いわゆるリーマンショックの影響から、自動車販売の需要が減少してY1からの受注量が急激に落ち込み、多数の余剰人員が生じたことによるものであって、やむを得ない措置であったことに照らすと、Y3がY2との労働者派遣契約を解除し、これに伴い、Y2がX5を解雇したことが不法行為を構成するものとは認められないことは、前記判断のとおりである。
〔解雇(民事)/短期労働契約の更新拒否(雇止め) /短期労働契約の更新拒否(雇止め)〕
〔労働契約/労働契約上の権利義務/使用者に対する労災以外の損害賠償〕
 X3に対する雇止めについては、Y3において人員削減の必要性があったこと、上記のとおり、雇止めを回避するための相応の措直が講じられていたこと、期間従業員を雇止めした人選が合理的なものであるといえること、雇止めに際しての手続が不十分であったとはいえないことを踏まえれば、客観的合理性及び社会通念上の相当性を欠くものということはできない。(中略)
 X4については、期間従業員としての雇用継続に合理的期待を有していたということはいえるが、Y3においてX3を雇止めとしたことには客観的合理性があり、社会通念上の相当性を欠くものということはできないから、Y3のX3に対する雇止めが無効であるとはいえない。
 X4については、そもそも雇用継続に合理的期待を有していたと認めることはできないから、解雇権濫用法理の類推適用について検討するまでもなく、Y3のX4に対する雇止めが無効であるとはいえない。
 X3及びX4が雇止めを受けたのは、平成21年1月13日に行われたY3の経営会議で期間従業員の雇止めが決定されたことによるものであり、Y1がその決定に関与していたことを認めるに足りる証拠はない。
また、Y3がX3及びX4に対して行った雇止めが無効とはいえないことは前記のとおりであり、雇止めそのものについても違法性があるとはいえない。そうすると、Y1及びY4がX3及びX4に対して不法行為を行ったものということはできない。