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ID番号 09082
事件名 地位確認等請求控訴事件
いわゆる事件名 広島中央保健生協(C生協病院・差戻審)事件
争点 妊娠を理由に軽易な業務へ転換させたことを契機として降格させたことが均等法9条3項の不利益取扱いに当たるか否かが争われた事案(労働者一部勝訴)
事案概要 (1) 被控訴人Y(被告、被控訴人、被上告人、広島中央保健生協)に雇用された副主任の職位にあった理学療法士である控訴人X(原告、控訴人、上告人)が、労働基準法六五条三項に基づく妊娠中の軽易な作業への転換に際して副主任を免ぜられ、育児休業の終了後も副主任に任ぜられなかったことから、Yに対し、上記の副主任を免じた措置(以下「本件措置一」という。)は雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(以下「均等法」という。)九条三項に違反する違法、無効なものである(主位的請求)、育児休業の終了後も副主任に任ぜられなかった措置(以下「本件措置二」という。)は育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(以下「育児等休業法」という。)一〇条に違反する違法、無効なものである(予備的請求)、とともに本件各措置は不法行為又は労働契約上の債務不履行に該当するなどと主張して、管理職(副主任)手当及び不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償金並びに各遅延損害金の支払を求め提訴したもの。
(2) 広島地裁、広島高裁はXの請求をいずれも棄却したが、最高裁は、女性労働者につき妊娠中の軽易業務への転換を契機として降格させる措置は、原則として雇用機会均等法9条3項の禁止する取扱いに当たるが、諸般の事情に照らして、当該労働者につき自由な意思に基づいて降格を承諾したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するときなどの特段の事情が存在するときには、同項の禁止する取扱いには当たらないというところ、本件措置につき同項の趣旨及び目的に実質的に反しないものと認められる特段の事情の存在を認めるにあたり、広島高裁では十分な審理が尽くされていないとして、広島高裁に差し戻したところ、広島高裁は、かような特段の事情の存在を否定して、Xの損害賠償請求を一部認容した。
参照法条 民法415条
民法709条
民法710条
雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律9条
育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律10条
労働基準法65条3項
体系項目 労基法の基本原則(民事)/均等待遇
労働契約(民事)/人事権/降格
女性労働者(民事)/産前産後
労働契約(民事) /労働契約上の権利義務 /使用者に対する労災以外の損害賠償請求
裁判年月日 2015年11月17日
裁判所名 広島高
裁判形式 判決
事件番号 平成26年(ネ)342号
裁判結果 原判決一部変更(確定)
出典 判例時報2284号120頁
労働判例1127号5頁
審級関係 告審 平成26年10月23日/最高裁判所第一小法廷/判決/平成24年(受)2231号
控訴審 平成24年7月19日/広島高等裁判所/第4部/判決/平成24年(ネ)165号
一審 平成24年2月23日/広島地方裁判所/民事第2部/判決/平成22年(ワ)2171号
評釈論文 両角道代・ジュリスト1494号111~114頁2016年6月
判決理由 〔労基法の基本原則(民事)/均等待遇 〕
〔労働契約(民事)/人事権/降格 〕
〔労働契約(民事) /労働契約上の権利義務 /使用者に対する労災以外の損害賠償請求〕
 上記認定のとおり、YがXに対し育児休業終了後の現場復帰の際に副主任の地位がどうなるかを明確に説明したと認めるに足りる証拠はないことを併せ考えると、本件措置一につき、本件事後承諾につき自由意思に基づく合理的な理由が客観的に存在するとはいえない。(中略)
 リハビリ科に異動したことによりXが得た利益とはいえても、降格させたことによる利益とはいえないこと、Xはそもそも降格を望んでおらず、これにより経済的損失を被るほか、人事面においても、役職取得に必要な職場経験のやり直しを迫られる不利益を受けること(当審W4証言)、Xは復帰時に役職者として復帰することが保証されているものではなかったこと(当審W4証言及び弁論の全趣旨)からすると、アで認定した業務上の負担軽減が大きな意味を持つとはいえない。また、Yは、Xが元の職場であるZ1に副主任として復帰させるための何らの方策(例えば異動後のZ1の副主任を空席にして代行あるいは事実上の取りまとめ役を置くこと)を検討することもしないで、平成二〇年二月中旬の時点でXのリハビリ科への異動の後Z3を副主任に任命することを決定していること(当審Z5証言)、Yが、副主任から降格させるにつき事前はもちろん、事後においても、Xに対し、手続及び決定理由の説明をしたと認めるに足りる証拠はないことをも併せ考えると、アで認定した業務上の軽減措置が、Xに対して与えた降格という不利益を補うものであったとは到底いえない。
(3) (1)及び(2)によると、本件措置一について、降格措置の必要性とそれが均等法九条三項に実質的に反しないと認められる特段の事情があったとはいえない。(中略)
 Xがやむなく承諾したことは認められるとしても、これが自由意思に基づくものであると認定し得る合理的理由は存在しないこと、職責者適格性についての的外れの主張に顕れているようにYにおいて本件措置一をなすにつき組織上人事上の決定権を有する職責者によって十分な検討がなされたとは到底いい難いこと、本件措置一の必要性や理由について事前にXに対する説明があったと認めるに足りる証拠はないこと、組織単位における主任、副主任の配置についてもYの従前の取扱いを墨守するのみで均等法等の目的、理念に従って女性労働者を遇することにつき使用者として十分に裁量権を働かせたとはいい難いことから考えると、Yには、本件措置一をなすにつき使用者として、女性労働者の母性を尊重し職業生活の充実の確保を果たすべき義務に違反した過失(不法行為)、労働法上の配慮義務違反(債務不履行)があるというべきであり、その重大さも不法行為又は債務不履行として民法上の損害賠償責任を負わせるに十分な程度に達していると判断できる。