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ID番号 09085
事件名 割増賃金等請求控訴事件
いわゆる事件名 富士運輸(割増賃金等)事件
争点 各種手当と割増賃金算定の基礎が争われた事案(労働者敗訴)
事案概要 (1) 貨物自動車運送事業等を目的とする株式会社である被控訴人Y(被告、富士運輸)に自動車(トラック)運転手として雇用されていた原告甲野太郎(以下「甲野」という。)が、Yに対し、雇用期間中の平成22年6月1日から平成24年2月29日(退職日)までの間(以下「本件請求期間」という。)における時間外労働、深夜労働及び休日労働(以下「時間外労働等」という。)に係る割増賃金の未払額が合計721万5568円、遅延損害金の支払を求めるとともに、上記割増賃金の未払は労働基準法(以下「労基法」という。)37条に違反するものであるとして、労基法114条に基づく上記の請求未払割増賃金額661万9657円と同額の付加金及びこれに対する¥遅延損害金の支払を求め提訴したもの。
(2) 千葉地裁は、甲野の賃金等に関する労働条件はYの就業規則及び賃金規程に定める内容のものであり、これらの定めによれば、甲野の賃金は固定給と歩合給から成り、甲野に月々支給された各種割増手当及び加算手当は割増賃金の支払であって、本件請求期間の各月に支払われたその各額は対応する各月に発生した割増賃金額よりも多いから、甲野に対する未払の割増賃金は存在しないと認定判断して、甲野の請求をいずれも棄却した。甲野は、原審の口頭弁論終結後で判決言渡し前である平成26年12月16日に破産手続開始決定を受けたため、甲野の破産管財人である控訴人Xが、本件の訴訟手続を受継した上、原審の上記判断を不服として控訴したところ、東京高裁は、原判決相当として、控訴を棄却した。
参照法条 労働基準法37条
労働基準法114条
体系項目 賃金(民事)/割増賃金/割増賃金の算定基礎・各種手当
裁判年月日 2015年12月24日
裁判所名 東京高
裁判形式 判決
事件番号 平成27年(ネ)第2236号
裁判結果 控訴棄却(確定)
出典 労働判例1137号42頁
審級関係 一審  平成26年12月25日/千葉地方裁判所/民事第1部/判決/平成25年(ワ)914号
評釈論文
判決理由 〔賃金(民事)‐割増賃金‐割増賃金の算定基礎・各種手当〕
(2) 次に、甲野の割増賃金の算定の基礎となる賃金の内容について検討する。
 ア 証拠(〈証拠略〉)によれば、本件請求期間中に甲野が支給を受けた給与の明細は、基本給、皆勤手当、運行勤務手当、各種割増手当、待機手当、加算手当、空車回送手当、その他諸手当、携帯電話手当、有給休暇手当、通勤手当、講習手当であることが認められる。このうち、基本給は固定給に当たるものである。
 前提事実(4)によれば、上記各手当うちの通勤手当は、労基法37条5項所定の通勤手当に当たるものと認められるから、割増賃金の基礎となる賃金に算入されないものである。
 前提事実(4)によれば、上記各手当のうちの運行勤務手当は、歩合給の支給であることが認められる。
 前提事実(2)及び(4)によれば、上記各手当のうちの各種割増手当は、時間外勤務に対する割増賃金の支給であることが認められる。
 前提事実(2)によれば、上記各手当のうちの加算手当は、本件労働契約書においては、待機手当、空車回送手当と並んでその他の手当として支給するものとされている一方、前提事実(4)によれば、平成23年版賃金規程においては、加算手当は割増賃金の一部として支給するものとされているところ、証拠(〈証拠略〉)によれば、平成23年版就業規則及び平成23年版賃金規程は、甲野がYを退職した後の平成24年11月18日にその改正内容についての富士運輸労働組合に対する説明会が行われ、平成25年1月25日に成田労働基準監督署長に届出されているものであることが認められること、平成23年版就業規則及び平成23年版賃金規程に記載されている改定実施日である平成23年5月1日より後の同年7月1日付けのGに対する被控訴人の雇用通知書では、加算手当は、各種割増手当とは別に、その他の手当の一つとして支給するものとされていること(前記認定事実(10))、労基法37条5項及び施行規則21条に定める割増賃金の基礎となる賃金の算定において算入されない賃金は制限的に列挙したものと解するのが相当であることに照らすと、平成23年版賃金規程は、甲野が在職中に適用されたものではなかったと解するのが相当である。そうすると、本件請求期間中に甲野に支給された加算手当は、割増賃金である各種割増手当と同じ趣旨の手当ではなく、その余の手当と同じ趣旨で支給される手当であると認めるのが相当である。
 前提事実(2)及び(4)並びに前記認定事実(1)によれば、上記各手当のうちの有給休暇手当を除く皆勤手当、待機手当、空車回送手当、その他諸手当、携帯電話手当及び講習手当は、いずれも、歩合給でも割増賃金でもなく、また、労基法37条5項及び施行規則21条に定める割増賃金の基礎となる賃金の算定において算入されない賃金にも当たらないものであり、かつ、通勤手当のように実費を補てんする手当とも異なるから、固定給に係る割増賃金の基礎となる賃金に算入される賃金であると解するのが相当である。
 前提事実(4)及び弁論の全趣旨によれば、上記各手当のうちの有給休暇手当は、トラック運転者が有給休暇を取得した場合、所定労働時間勤務した場合に得られる歩合給額を支給するものであることが認められるから、同手当は、歩合給に係る割増賃金の基礎となる賃金に算入される賃金であると解するのが相当である。
 イ 以上によれば、甲野が本件請求期間中に支給を受けた給与のうち、固定給に係る割増賃金を算定する基礎となるのは、基本給、皆勤手当、待機手当、加算手当、空車回送手当、その他諸手当、携帯電話手当及び講習手当であり、歩合給に係る割増賃金を算定する基礎となるのは、運行勤務手当及び有給休暇手当である。(中略)
 以上によれば、本件請求期間における各月の「各種割増(実際)」欄記載の各金額は、いずれの月も、対応する各月の「割増合計」欄記載の各金額を上回っているから、本件請求期間における甲野に対する未払の割増賃金はないことが認められる。