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ID番号 09086
事件名 地位確認等請求事件件
いわゆる事件名 東京メトロ(諭旨解雇・本訴)事件
争点 職務外で車内痴漢行為をした社員への懲戒解雇の有効性が争われた事案(労働者勝訴)
事案概要 (1) 旅客鉄道事業の運営等を営む株式会社である被告Yと雇用契約を締結した原告Xが、XはYから懲戒処分である諭旨解雇処分を受け、平成26年4月25日付けでYを解雇されたところ、本件処分は無効である旨を主張して、Yに対し、Xが本件契約上の権利を有する地位にあることの確認を求め、あわせて、本件契約に基づき、上記平成26年4月25日の翌日以降の各賃金及びこれらに対する遅延損害金の支払を求め提訴したもの。
(2) 東京地裁は、本件処分につき、懲戒事由該当性は認められるが、相当性はないとして、懲戒権の濫用があるとして、Xの請求を認容した。
参照法条 労働契約法15条
体系項目 懲戒・懲戒解雇 /懲戒権の濫用 /懲戒権の濫用
懲戒・懲戒解雇 /懲戒事由 / 職務外非行
懲戒・懲戒解雇 /懲戒事由 /信用失墜
裁判年月日 2015年12月25日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成26年(ワ)第27027号
裁判結果 認容(控訴)
出典 労働判例1133号5頁
労働経済判例速報2273号3頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇‐懲戒権の濫用‐懲戒権の濫用〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-職務外非行〕
〔懲戒・懲戒解雇‐懲戒事由‐信用失墜〕
3 本件行為の懲戒事由該当性について(中略)
 Xは、平成25年12月12日午前7時24分ころ、C駅からD駅方面に向かうB線に乗車していたところ、Xは、同電車の車内において、少なくとも5ないし6分の間、当時14歳の被害女性の右臀部付近及び左大腿部付近を着衣の上から左手で触るなどした(本件行為)。(中略)
 従業員の私生活上の非行であっても、会社の企業秩序に直接の関連を有するもの及び企業の社会的評価の毀損をもたらすと客観的に認められるものについては、企業秩序維持のための懲戒の対象となり得るものというべきである。(中略) 本件行為は、他の鉄道会社とともに痴漢行為の撲滅に積極的に取り組むYが運行する電車の中で行われたものであるというのである。かかる点にかんがみれば、Xの上記指摘の各点を勘案しても、なお、本件行為は、Yにおける懲戒の対象となり得るものというべきである。(中略)
4 本件処分の相当性について(中略)
 本件行為につき、略式命令を請求されるにとどまり、かつ、本件略式命令についても、罰金20万円の支払を命じられるにとどまったというのである。
 以上のような本件行為の内容、態様等に加え、本件行為に対する処罰の根拠規定である本件条例8条1項2号、5条1項1号が定める法定刑が6月以下の懲役または50万円以下の罰金であること(甲16)をも併せ考えれば、本件行為のような痴漢行為が許されないものであることは当然であるものの、本件行為は、上記規定による処罰の対象となり得る行為の中でも、悪質性の比較的低い行為であるというべきである。(中略)
 本件行為ないし本件行為に係る刑事手続についてマスコミによる報道がされたことはなく、その他本件行為が社会的に周知されることはなかったというのである。また、一件記録に照らしても、本件行為に関し、YがYの社外から苦情を受けたといった事実を認めるに足りる証拠も見当たらない。
 以上にかんがみれば、本件行為がYの企業秩序に対して与えた具体的な悪影響の程度は、大きなものではなかったというべきである。(中略)
エ 以上を合わせ考えれば、上述の、Yが他の鉄道会社とともに本件行為の当時に痴漢行為の撲滅に向けた取組を積極的に行っていた、Xが本件事故の当時駅係員として勤務していた、といった各点を考慮しても、なお、本件行為に係る懲戒処分として、諭旨解雇というXのYにおける身分を失わせる処分をもって臨むことは、重きに失するといわざるを得ない。