全 情 報

ID番号 09107
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 ツクイほか事件
争点 妊娠労働者に対する職場環境整備義務違反が問われた事案(労働者一部勝訴)
事案概要 (1) 介護サービスを営むY1(被告)との間で雇用契約を締結し、Yの営業所において介護職員として就労していたX(原告)が、妊婦であったXに対してマタニティハラスメント及びパワーハラスメントを行ったとして、同営業所の所長であったY2(被告)に対しては、不法行為に基づき、Y1に対しては、使用者責任に基づき、さらに、Y1に対しては、労働契約上の就業環境整備義務に反したと主張して、債務不履行に基づき、連帯して慰謝料500万円の損害賠償金及びこれに対する遅延損害金の支払を求め、また、未払賃金及びこれに対する遅延損害金の支払を求める事案である。
(2) 福岡地裁小倉支部は、Yらの職場環境整備義務違反を認め、Xの慰謝料請求を一部認容した。
参照法条 民法415条
民法709条
民法715条
労働契約法
雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律11条の2
体系項目 労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/(24)職場環境調整義務
裁判年月日 2016年4月19日
裁判所名 福岡地裁小倉支部
裁判形式 判決
事件番号 平成26年(ワ)823号
裁判結果 一部認容、一部棄却
出典 判例時報2311号130頁
労働判例1140号39頁
審級関係 控訴(後和解)
評釈論文
判決理由 〔労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/(24)職場環境調整義務〕
 Y2は、本件営業所の所長として、従業員の労務を管理する立場にあったもので、Xら従業員の職場環境を整え、妊婦であったXの健康に配慮する義務があったといえるところ、(略)妊娠をした者(X)に対する業務軽減の内容を定めようとする機会において、業務態度等における問題点を指摘し、これを改める意識があるかを強く問う姿勢に終始しており、受け手(X)に対し、妊娠していることを理由にすることなく、従前以上に勤務に精励するよう求めているとの印象、ひいては、妊娠していることについての業務軽減等の要望をすることは許されないとの認識を与えかねないもので、相当性を欠き、また、速やかにXのできる業務とできない業務を区分して、その業務の軽減を図るとの目的からしても、配慮不足の点を否定することはできず、全体として社会通念上許容される範囲を超えているものであって、使用者側の立場にある者として妊産婦労働者(X)の人格権を害するものといわざるを得ない。
 Xに対する言動には違法なものがあり、これによりXが委縮していることをも勘案すると、指示をしてから1月を経過してもXから何ら申告がないような場合には、Y2においてXに状況を再度確認したり、医師に確認したりしてXの職場環境を整える義務を負っていたというべきである。そして、Y2は、同年10月13日以降も拱手傍観し、何らの対応をしていないところ、Y2が、Xに対して負う職場環境を整え、妊婦であったXの健康に配慮する義務に違反したものといえる。
 Xの精神的苦痛は相応のものではあるが、他方、Y2に嫌がらせの目的があったとはいえないこと、業務軽減について(略)ことさらにXに負担を負わせたなどの事情も認められないことからすると、Y2による不法行為によりXが受けた精神的苦痛を慰謝するには、35万円が相当である。