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ID番号 09112
事件名 地位確認請求事件
いわゆる事件名 長澤運輸事件
争点 嘱託社員と正社員との間の労働条件の相違の違法性が問われた事案(労働者一部勝訴)
事案概要 (1) Y(被告)を定年退職した後にYとの間で期間の定めのある労働契約を締結して就労しているX(原告)らが、Xらと期間の定めのない労働契約を締結している従業員との間に不合理な労働条件の相違が存在すると主張して、主位的には、当該不合理な労働条件の定めは労働契約法20条により無効であり、Xらには一般の就業規則等の規定が適用されることになるとして、Yに対し、当該就業規則等の規定の適用を受ける労働契約上の地位の確認を求めるとともに、労働契約に基づき、当該就業規則等の規定により支給されるべき賃金と実際に支給された賃金との差額及びこれに対する遅延損害金の支払を求め、予備的には、Yが上記労働条件の相違を生じるような嘱託社員就業規則を制定し、Xらとの間で嘱託社員労働契約書を締結し、これらを適用して本来支払うべき賃金を支払わなかったことは、労働契約法20条に違反するとともに公序良俗に反し、違法であるとして、Yに対し、民法709条に基づき、上記差額に相当する額の損害賠償金及びこれに対する遅延損害金の支払を求める事案である。
(2) 東京地裁は、Xらと正社員との労働条件の相違は不合理であるとして、Xらの請求を一部認容した。
参照法条 労働契約法20条
高年齢者等の雇用の安定等に関する法律9条
体系項目 労基法の基本原則(民事)/均等待遇
裁判年月日 2016年5月13日
裁判所名 東京地裁
裁判形式 判決
事件番号 平成26年(ワ)27214号/平成26年(ワ)31727号
裁判結果 認容
出典 判例時報2315号119頁
判例タイムズ1430号217頁
労働判例1135号11頁
労働経済判例速報2278号3頁
労働法律旬報1868号71頁
審級関係 控訴
評釈論文
判決理由 〔労基法の基本原則(民事)/均等待遇〕
 有期契約労働者の職務の内容(上記〈1〉)並びに当該職務の内容及び配置の変更の範囲(上記〈2〉)が無期契約労働者と同一であるにもかかわらず、労働者にとって重要な労働条件である賃金の額について、有期契約労働者と無期契約労働者との間に相違を設けることは、その相違の程度にかかわらず、これを正当と解すべき特段の事情がない限り、不合理であるとの評価を免れないものというべきである。
 本件において、嘱託社員であるXらと正社員との間には、業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度に差異がなく(前提事実(5)オ)、Yが業務の都合により勤務場所や業務の内容を変更することがある点でも両者の間に差異はないから(同(5)エ)、有期契約労働者であるXらの職務の内容(上記〈1〉)並びに当該職務の内容及び配置の変更の範囲(上記〈2〉)は、無期契約労働者である正社員と同一であると認められる。また、Xらの職務内容に照らし、定年の前後においてその職務遂行能力についての有意な差が生じているとは考えにくく、実際にもそのような差異が生じていることや、雇用期間中にそのような有意な差異が生じると推測すべきことを相当とする事情を認めるに足りる証拠もないから、職務の内容(上記〈1〉)に準ずるような事情の相違もない。そうすると、本件相違は、これを正当と解すべき特段の事情がない限り、不合理なものとの評価を免れないことになる。
 本件において、嘱託社員と正社員との間に職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲に全く違いがないにもかかわらず、賃金の額に関する労働条件に相違を設けることを正当と解すべき特段の事情は認められない。
 以上によれば、本件相違は、労働者の職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情に照らして不合理なものであり、労働契約法20条に違反するというべきである。
 Yの正社員就業規則が原則として全従業員に適用されるものとされており、嘱託者についてはその一部を適用しないことがあるというにとどまることからすれば、嘱託社員の労働条件のうち賃金の定めに関する部分が無効である場合には、正社員就業規則の規定が原則として全従業員に適用される旨の同規則三条本文の定めに従い、嘱託社員の労働条件のうち無効である賃金の定めに関する部分については、これに対応する正社員就業規則その他の規定が適用されることになるものと解するのが相当である。