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ID番号 09114
事件名 時間外労働手当等請求事件
いわゆる事件名 無洲事件
争点 2暦日にまたがるシフトの労働時間通算の可否等が問われた事案
事案概要 (1) X(原告)が、食堂の委託業務等を行う会社であるY(被告)に調理師として就労し、Yから懲戒解雇された後、懲戒解雇は違法であり、かつ、在職中、被告が安全配慮義務に違反して原告に長時間労働を強いた上、労働基準法所定の割増賃金を支払っていない旨主張して、割増賃金及びこれに対する遅延損害金、並びに付加金の請求を求め、また違法な長時間労働に係る安全配慮義務違反の債務不履行に基づく損害賠償金及びこれに対する遅延損害金、違法な懲戒解雇に係る不法行為に基づく損害賠償金及びこれに対する遅延損害金の各支払を求めている事案である。
(2) 東京地裁は、2暦日にまたがるYのシフトを1暦日に通算せず、割増賃金請求を棄却した一方、安全配慮義務違反の成立、懲戒解雇の無効を認め、それに関わるXの請求を一部認容した。
参照法条 民法415条
民法623条
民法709条
労働基準法32条
労働基準法36条
労働基準法37条
体系項目 労働時間(民事)/労働時間の通算
労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/(16)安全配慮(保護)義務・使用者の責任
懲戒・懲戒解雇/懲戒権の根拠
裁判年月日 2016年5月30日
裁判所名 東京地裁
裁判形式 判決
事件番号 平成26年(ワ)30224号
裁判結果 一部認容、一部棄却
出典 判例タイムズ1430号201頁
労働判例1149号72頁
審級関係 控訴(後和解)
評釈論文
判決理由 〔労働時間(民事)/労働時間の通算〕
 労基法第32条第2項の「1日」とは暦日を指すものと解されるところ、確かに、暦日を異にする場合でも、継続した1勤務が2暦日にまたがる場合には、当該勤務は始業時刻の属する日の労働として当該1日の労働とするものと解するのが相当と考えられる場合がある(昭和63年1月1日基発1号参照)。
 しかしながら、(1)において認定した各シフトの始業時刻及び終業時刻を前提とすると、本件の先行するシフトは午前0時に終了し、後行するシフトは午前4時から開始するから、シフトとシフトとの間には4時間の間隔がある。当該4時間について、YがXに対し、施設内にとどまり、待機するよう指示していたことを認めるに足りる証拠はなく、Xにおいても、シフトとシフトの間の時間は1勤務の中の休憩時間であると主張しているのであるから、シフトとシフトとの間の時間が、労働から解放された時間であったこと自体については争いがない。仮眠設備があったとしても、Xにおいて、当該仮眠設備を利用して宿泊しなければならない義務があったわけではなく、当該時間が深夜の時間帯であり、事実上、自宅への公共交通機関がないというだけでは、Yの拘束のもとにある時間(拘束時間)であったと認めることはできない。また、後記認定に係る実際の労働時間を考慮しても、第一日目のシフトと第二日目のシフトとの間には、約3時間半程度の労働から完全に解放された時間があったということができる。そうすると、第一日目のシフトに係る業務終了後、約3時間半(シフト上は4時間)の中断を経た後開始する第二日目のシフトに係る勤務が、第一日目の勤務と連続した1暦日の勤務であるとまでは認めることはできない
 両シフトを併せて2暦日にまたがる1勤務と認めることはできず、各シフトは、それぞれが1暦日における1勤務として、時間外労働等の賃金を計算するのが相当である。
〔労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/(16)安全配慮(保護)義務・使用者の責任〕
 Xの毎月の時間外労働の時間(1日8時間超過分と週40時間超過分の合計)は、平成24年8月から平成25年8月までの間、継続して、概ね80時間又はそれ以上となっている(タイムカード上は、これをはるかに超える。)。Yは、三六協定を締結することもなく、Xを時間外労働に従事させていた上、上記期間中、Yにおいてタイムカードの打刻時刻から窺われる原告の労働状況について注意を払い、事実関係を調査し、改善指導を行う等の措置を講じたことを認めるに足りる主張立証はない。したがって、Yには安全配慮義務違反の事実が認められる。
〔懲戒・懲戒解雇/懲戒権の根拠〕
 本件において、Yの就業規則が周知されていなかったことは争いがないから、本件懲戒解雇は労働者に周知されていない就業規則の定めに基くものとして、効力を有しないというべきである。