全 情 報

ID番号 09128
事件名 地位確認等反訴請求控訴事件
いわゆる事件名 学校法人専修大学(差戻審)事件
争点 傷病による長期欠勤労働者に対する解雇の有効性が問われた事案(労働者敗訴)
事案概要 (1) 業務上の疾病により休業し労災保険法に基づく療養補償給付及び休業補償給付を受けているX(原告、被控訴人、被上告人)が、Y(被告、控訴人、上告人)から打切補償として平均賃金の1200日分相当額の支払を受けた上でされた解雇につき、解雇は無効であると主張して、Yに対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、不法行為による損害賠償請求権に基づき、400万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた事案である。
(2) 東京地裁は、本件解雇は、労基法19条1項ただし書所定の場合に該当せず、解雇は無効であるとしたためYが控訴したところ、東京高裁も一審判決を維持したため、Yが上告したところ、最高裁は、解雇制限の除外事由を定める同法19条1項ただし書の適用を受けることができるとして解雇の有効性につき原審に差し戻したところ、東京高裁差戻審は、本件解雇は有効であるとしてXの請求を棄却した。
参照法条
体系項目 解雇(民事)/解雇事由/(3) 職務能力・技量
解雇(民事)/解雇事由/(4) 無届欠勤・長期欠勤・事情を明らかにしない欠勤
裁判年月日 2016年9月12日
裁判所名 東京高裁
裁判形式 判決
事件番号 平成27年(ネ)3505号
裁判結果 原判決一部取消
出典 労働判例1147号50頁
労働経済判例速報2297号3頁
審級関係 上告審 最高裁第二小法廷/平成27年6月8日/平成25年(受)2430号
控訴審 東京高裁/平成25年7月10日/平成24年(ネ)7172号
第一審 東京地裁/平成24年9月28日/平成24年(ワ)5958号
上告・上告受理申立
評釈論文
判決理由 〔解雇(民事)/解雇事由/(3) 職務能力・技量〕
〔解雇(民事)/解雇事由/(4) 無届欠勤・長期欠勤・事情を明らかにしない欠勤〕
 Yは、Xが平成14年3月頃から本件疾病(頸肩腕症候群)による通院・加療を開始し、平成15年3月にその旨の医師の診断を受けたことから、その業務負荷を軽減するため、同年5月1日付けでXを人事課に異動させたが、Xは、同年6月3日から1年間欠勤し、さらに1年間休職期間満了まで休職を続けたというのである。その後、Xの症状に改善の兆しが見られたことから(略)人事課に配属の上、業務負担の軽いBセンターインフォメーション業務に従事させたが、Xは、本件疾病の影響により、約半年で就労が困難になって休業を余儀なくされ、この休業から本件解雇がされるまでの約5年9か月間、Xから復職可能であることの適格な申出はなかったことが認められ、また、直ちには復職ができない状態にあったことも認められる。
 そうすると、本件は、労働者の労務提供の不能や労働能力の喪失が認められる場合に当たり、本件解雇については客観的に合理的な理由があると認めるのが相当である。
 一般に、業務災害に被災した労働者の早期の社会復帰やそのための施策が望まれることはそのとおりであるが、労災保険法の趣旨が、業務災害に被災した労働者に対し、その使用者の下への復帰を、労働基準法の定める打切補償の要件が満たされた事案を含めて、一律に権利として保障するものであると解すべき根拠はない。そして、本件事実関係の下において、Xの求めていた部分就労がYとXとの労働契約において労務の提供といえるものでないことは、前記のとおりである。また、Xのいう労災申請の妨害や退職の強要は、平成19年11月に労災認定がされる以前のことであり、その後、Yにおいて退職の取消しと復職が図られ、その後に労働基準法の定める打切補償の要件が満たされたことを前提として本件解雇がされていることからすれば、解雇の効力とは必ずしも結びつかないというべきである。(略)本件解雇が、客観的に合理的理由がなく、社会通念上相当でないということはできず、解雇権の濫用に当たるとは認められないから、本件解雇は有効であるというべきである。したがって、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるXの請求は理由がない。