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ID番号 09132
事件名 未払賃金等請求事件
いわゆる事件名 あおき事件
争点 就業規則の不利益変更の合理性および意見聴取の適法性が問われた事案(労働者勝訴)
事案概要 (1) スーパーマーケット事業等を営む株式会社Y(被告)で正社員として勤務し、懲戒解雇されたX(原告)が、Yに対し、時間外労働に係る未払割増賃金及び労働基準法114条所定の付加金の支払いを求める事案である。
(2) 東京地裁は、Y主張の就業規則の不利益変更に合理性はないとして、Xの請求を一部認容した。
参照法条 労働基準法90条1項
労働契約法10条
体系項目 就業規則(民事)/就業規則の一方的不利益変更/(3) 賃金・賞与
就業規則(民事)/意見聴取
就業規則(民事)/就業規則と労働契約
裁判年月日 2016年9月27日
裁判所名 東京地裁
裁判形式 判決
事件番号 平成26年(ワ)32103号
裁判結果 一部認容、一部棄却
出典
審級関係
評釈論文
判決理由 〔就業規則(民事)/就業規則の一方的不利益変更/(3) 賃金・賞与〕 〔就業規則(民事)/意見聴取〕
 基本給と固定残業手当を合計した総支給額にほぼ変更がなく、大きな不利益を生じさせるものではなかったこと、Yの労務コストを削減する必要性に迫られていたこと、各店舗の従業員代表者(F店においては、最も勤務歴の長かったG氏)に取りまとめを依頼し、その結果として意見書に署名押印を得ていること、就業規則変更に係る労働基準監督署に対する届け出も行ったことなどを指摘する。
 しかしながら、就業規則は店長室に保管されており、従業員に対する周知に欠いていた(略)変更後の就業規則においては、基本給が減額され、固定残業手当の制度が導入されているだけで、固定残業手当をその減額幅と同程度増額することを保証するような定めはそもそも置かれていない。(略)1日当たり3.5時間以内の時間外労働について、割増賃金が支給されないことによりXの受ける不利益の程度が著しいことは、前記認定のとおりである。(略)G氏は、F店において最も勤続年数が長く、Yにより従業員代表に指名されたに過ぎず、同法施行規則所定の手続を経て選出された者であるとは認めがたい。また、G氏からの意見聴取がされたのは平成24年11月25日であるし、Xを含むF店の従業員から個別に同意書を取り付けたのは、E店長の証言を前提としても「4月」(4~5頁)ということである。そうすると、Yにおいて、従業員に大きな不利益をもたらす就業規則を変更するに先立ち、Xを含む従業員の意見を聴取する機会は設けられなかったと認めるほかない。(略)Xとの関係において、平成24年4月1日付けの就業規則の変更が合理的なものであるとは認められず、その就業規則の変更に基づく基本給の減額は無効であると認められる。
〔就業規則(民事)/就業規則と労働契約〕
 給与体系の変更によりXが受ける不利益の程度は著しいところ、その不利益の程度に照らし、YのXに対する説明内容は不正確かつ不十分と言わざるを得ないうえ、上記(3)で説示した平成24年4月1日付けの就業規則変更の経緯等に照らせば、Xが本件同意書に署名したからといって、これがXの自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在したとはいえず、Xによる有効な同意があったとは認められない。