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ID番号 09138
事件名 請求異議事件
いわゆる事件名 損保ジャパン日本興亜(付加金支払請求異議)事件
争点 判決確定前に未払割増賃金を支払った使用者による付加金支払の強制執行不許請求の可否が争われた事案(労働者勝訴)
事案概要 (1) 判決により労働基準法114条所定の付加金の支払を命ぜられた損害保険ジャパン日本興亜株式会社(X、原告)が、判決確定前に未払割増賃金を支払ったので、付加金の支払義務が発生しておらず、Xに対して未払割増賃金請求をしたY(被告)が同判決を債務名義、同判決で命ぜられた付加金請求権を請求債権とし、Xを債務者として行った債権差押えは不当な執行であるとして、同強制執行の不許を求める請求異議の事案である
(2) 東京地裁は、事実審の口頭弁論終結後の事情によって、当該判決による付加金支払義務の発生に影響を与えないとして、Xの請求を棄却した。
参照法条 労働基準法114条
体系項目 雑則(民事)/附加金
裁判年月日 2016年10月14日
裁判所名 東京地裁
裁判形式 判決
事件番号 平成27年(ワ)33503号
裁判結果 棄却
出典 労働判例1157号59頁
審級関係 控訴(後棄却)
評釈論文
判決理由 〔雑則(民事)/附加金〕
 付加金の性質は、労働基準法によって使用者に課せられた義務の違背に対する制裁であって、損害の填補としての性質を持つものではないと解され、実体法的な権利関係に基づいて生ずるものではないから、未払割増賃金の弁済等の実体法上の消滅原因によって付加金支払義務を免れることができないというべきである。また、付加金支払義務は、付加金の支払を認める判決の確定によって生じるところ、判決の基礎とすることができる事実は、事実審の口頭弁論終結時までのものである。このことからすると、付加金の支払を認める判決の確定によって、付加金支払義務が発生するためには、事実審の口頭弁論終結時において、付加金の支払を命ずるための要件が具備されていれば足り、当該判決が取り消されない限りは、事実審の口頭弁論終結後の事情によって、当該判決による付加金支払義務の発生に影響を与えないというべきである。
 したがって、使用者が判決確定前に未払割増賃金を支払ったとしても、その後に確定する判決によって付加金支払義務が発生するので、付加金支払義務を消滅させるには、控訴して第一審判決の付加金の支払を命ずる部分の取消を求め、その旨の判決がされることが必要となる。(略)
 最高裁平成26年判決では、付加金支払義務はその支払を命ずる判決の確定によって発生するものであるが、事実審の口頭弁論終結後の事実は判決の基礎とすることができないから、使用者が未払賃金の支払を完了して付加金支払義務を免れることができるのは、訴訟手続上、事実審の口頭弁論終結時までとなることが説示されているものと解され、このことからすると、付加金支払義務を免れるためには使用者としては控訴をした上で訴訟手続上、支払の事実を主張立証することが必要であると解される。