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ID番号 09141
事件名 公務災害国家賠償請求控訴事件
いわゆる事件名 糸島市事件
争点 自殺した市職員につき業務起因性の有無が問われた事案(労働者勝訴)
事案概要 (1) 糸島市(Y、被告、被控訴人)に在職中の平成22年6月5日に自殺により死亡したBの相続人であるX(原告、控訴人)らが、Bは、Yにおける公務上の心理的負荷のために精神障害を発症し、それにより自殺したと主張して、Yに対し、主位的に、国家賠償法1条1項に基づき、予備的に安全配慮義務違反(民法415条)を理由として、合計7766万3991円の損害賠償及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた事案である。
(2) 福岡地裁はXらの請求をいずれも棄却したため、Xらが控訴したところ、福岡高裁はBの死亡に業務起因性を認め、原判決を一部変更し。Xらの請求を一部認容した。
参照法条 国家賠償法1条1項
体系項目 労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/(16)安全配慮(保護)義務・使用者の責任
労基法の基本原則(民事)/国に対する損害賠償請求
裁判年月日 2016年11月10日
裁判所名 福岡高裁
裁判形式 判決
事件番号 平成28年(ネ)198号
裁判結果 原判決一部変更
出典 労働判例1151号5頁
審級関係 一審 福岡地裁/平成28年1月21日/平成25年(ワ)第3718号
確定
評釈論文
判決理由 〔労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/(16)安全配慮(保護)義務・使用者の責任〕
〔労基法の基本原則(民事)/国に対する損害賠償請求〕
 本件条例案に関する業務は、Yにおける平均的な管理職員(課長職)にとって過重な業務であり、Bには同業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積していたと認めるのが相当である。
 前記のとおり、本件条例案に関する業務がYにおける平均的な管理職員(課長職)にとって過重な業務であったことを踏まえると、Bが、平成22年6月頃にうつ病を発症して本件自殺に及んだ原因が公務(本件条例案に関する業務)にあったことは明らかであり、公務と本件自殺との間に因果関係を認めることができる。
 本件自殺前、Bには、過重労働により心身の健康を損なっていることを示す明らかな兆候があったと認めることができるから、Bの上司に当たるF部長は、Yの代理監督者として、Bの心身の健康状態について通常の注意を払うことにより、Bが過重な業務に起因して心身の健康を損なっていることを認識できたというべきである。
 Yの代理監督者であるF部長には、Bに対する安全配慮義務違反があると認められるところ、同義務違反は国家賠償法1条1項の過失に当たるから、Yは、Bの相続人であるXらに対し、国家賠償法1条1項に基づき、Bの死亡によって生じた損害を賠償する義務がある。