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ID番号 09149
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 竹屋ほか事件
争点 亡ドーナツ店店長の管理監督者性と会社の安全配慮義務違反が問われた事案(労働者勝訴)
事案概要 Y社(被告)の経営するドーナツ店の店長兼Y社の課長代理であった亡Aの相続人であるXら(原告ら)が、Y社が労働者の労働時間を適正に把握し、適正に管理する義務を怠り、亡Aを長時間労働等の過重な業務に従事させたことにより、亡Aが致死性不整脈で死亡したとして、Y社およびY代表者らに対し、不法行為および会社法429条1項に基づき損害賠償等を求めた事案である。
参照法条 民法709条
会社法429条
労働契約法5条
労働基準法41条
体系項目 労働時間(民事)/労働時間・休憩・休日の適用除外/(2) 管理監督者
労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/(16)安全配慮(保護)義務・使用者の責任
裁判年月日 2017年1月30日
裁判所名 津地裁
裁判形式 判決
事件番号 平成26年(ワ)168号
裁判結果 一部認容、一部棄却
出典 労働判例1160号72頁
労働経済判例速報2311号3頁
審級関係 確定
評釈論文
判決理由 〔労働時間(民事)/労働時間・休憩・休日の適用除外/(2) 管理監督者〕
 パート従業員及びアルバイト従業員の募集、採用及び労働条件の決定等を含めて、Y社における労務管理の一端を担っていることは否定できないものの、あくまでも同店舗内の労務管理にすぎず、経営者と一体的立場にあったとは言い難い。亡Aが、Y社全体の事業経営に関する重要事項に関与していたと認めるに足りる証拠もない。
 Y社における店長業務については、セール時期も含めて、概ね所定の労働時間が定められており、亡Aは、概ね被告会社の定める所定の労働時間よりも早い時間に出勤し、これよりも遅い時間に退勤していたのであるから、亡Aに出退勤を含む労働時間について自由裁量があったとは認められない。
 亡A基本賃金に加え、役割手当等を受給し、平均月額45万2010円の賃金を受給していたが、役割手当は月6万にすぎず、月100時間を超える時間外労働の勤務実態を考慮すると、この程度の給与では労働基準法の労働時間等に関する規程の適用除外となる管理監督者に相応する待遇を受けていたとはいえない。
 亡Aは、労働条件の決定その他労働管理について経営者と一体的な立場にあり、労働基準法所定の労働時間の枠を超えて事業活動をすることが要請されるような重要な職務と権限を付与されていたとはいえず、同法41条2号所定の管理監督者あるいはそれに準ずる立場に該当するとは認められない。
〔労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/(16)安全配慮(保護)義務・使用者の責任〕
 亡Aの労働時間が長期にわたり長時間に及んでいるにもかかわらず、亡Aの上司であるKは、口頭聴取をしたのみで、具体的な改善策を講じなかったうえ、退勤時間が遅くなっている理由については特段の聴取すらしなかったことが認められる。そうすると、Y会社は、亡Aの労働時間が長期にわたり長時間に及んだ原因を特段分析もしておらず、また、亡Aの業務を軽減する措置を採っていないといわざるを得ない。かえって、Kは、後輩への指導は、後輩の指導を業務とする課長代理の業務ではなく単に亡Aが自主的に行ったものであると供述するなど、Y会社においては、個々の労働者に負担を掛ける業務態勢となっていたことが窺える。
 したがって、Y社が定期健康診断を実施したり、口頭聴取をしたというだけでは、Y社が安全配慮義務を尽くしたとはいえず、Y社には安全配慮義務違反が認められる。
 会社法429条1項にいう取締役の会社に対する善管注意義務は、会社の使用者としての立場から遵守されるべき被用者の安全配慮義務の履行に関する任務懈怠をも包含すると解するのが相当である。Y代表者らには、Y社が適宜適切に安全配慮義務を履行できるように業務執行すべき注意義務を負担しながら、重大な過失によりこれを放置した任務懈怠があり、その結果、第三者である亡Aの死亡という結果を招いたから、Y代表者らも会社法429条1項に基づき、亡Aに対し、Y社と同一の責任を負担するというのが相当である。