全 情 報

ID番号 09150
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 TRUST事件
争点 妊娠労働者の退職合意の有無が問われた事案(労働者勝訴)
事案概要 Y(被告)で建築測量・墨出し工事一式、その他付属する業務していたX(原告)が、インフルエンザによる休暇中に妊娠が発覚し上司に相談したところ、妊娠中のYでの業務継続が困難であるため、派遣会社に登録し、派遣先企業での業務についたところ、YがXを退職扱いとしたため、Xが退職の意思表示はしていないとして、Yに対して労働契約上の地位確認および未払賃金の支払いを求めた事案である。
参照法条 民法536条
民法【平成29年6月2日法律第44号改正後】536条
労働契約法
雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律9条
体系項目 退職/合意解約
裁判年月日 2017年1月31日
裁判所名 東京地裁立川支部
裁判形式 判決
事件番号 平成27年(ワ)2386号
裁判結果 一部認容、一部棄却
出典 労働判例1156号11頁
労働法律旬報1884号65頁
審級関係 控訴
評釈論文 増田崇・労働法律旬報1884号46頁
竹内(奥野)寿・ジュリスト1504号4頁
男澤才樹・労働法令通信2460号20頁
根本到・法学セミナー62巻11号111頁
井川志郎・労働法学研究会報68巻18号22頁
男澤才樹・経営法曹195号91頁
岩永昌晃・民商法雑誌154巻1号205頁
武井寛・速報判例解説〔21〕(法学セミナー増刊)269頁
判決理由 〔退職/合意解約〕
 退職は、一般的に、労働者に不利な影響をもたらすところ、雇用機会均等法1条、2条、9条3項の趣旨に照らすと、女性労働者につき、妊娠中の退職の合意があったか否かについては、特に当該労働者につき自由な意思に基づいてこれを合意したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか慎重に判断する必要がある。
 Yが退職合意のあったと主張する時点まで、Y側からは、社会保険について、Xの退職を前提に、Yの下では既に加入できなくなっている旨の明確な説明や、退職届の受理、退職証明書の発行、離職票の提供等の、客観的、具体的な退職手続がなされておらず、他方で、X側は、Yに対し、継続して、社会保険加入希望を伝えており、Y代表者から退職扱いとなっている旨の説明を受けて初めて、離職票の提供を請求した上で、自主退職ではないとの認識を示しており、さらに、Yの主張を前提としても、退職合意があったとされる時に、Yは、Xの産後についてなんら言及をしていないことも併せ考慮すると、Xは、産後の復帰可能性のない退職であると実質的に理解する契機がなかったと考えられ、また、Yに紹介された派遣会社につき、派遣先やその具体的労働条件について決まる前から、Xの退職合意があったとされていることから、Xには、Yに残るか、退職の上、派遣登録するかを検討するための情報がなかったという点においても、自由な意思に基づく選択があったとは言い難い。
 以上によれば、Y側で、労働者であるXにつき自由な意思に基づいて退職を合意したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在することについての、十分な主張立証が尽くされているとは言えず、これを認めることはできない。よって、Xは、Yにおける、労働契約上の権利を有する地位にあることが認められる。