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ID番号 09153
事件名 業務外処分取消請求控訴事件
いわゆる事件名 国・半田労基署長(テー・エス・シー)事件
争点 ブルガダ症候群の基礎疾病を有する労働者の心停止による死亡につき、業務起因性が問われた事案(労働者勝訴)
事案概要 (1) A社に勤務していたBが死亡したことについて、Bの妻であるX(編国、控訴人)が、D労働基準監督署長に対し、Bの死亡はAにおける過重な業務に起因するとして、労災保険法に基づく遺族補償給付等の支給を請求したところ、Bの死亡は業務上の理由によるものとは認められないとして、遺族補償給付等を支給しない旨の各処分(以下「本件各不支給処分」)を受けたため、Xが、Y(国・D労基署長、被告、被控訴人)に対し、本件各不支給処分の取消しを求める事案である。
(2) 名古屋地裁はBの死亡につき業務起因性を否定して、Xの請求をいずれも棄却した。
参照法条 労働者災害補償保険法16条
体系項目 労災補償・労災保険/業務上・外認定/(2) 業務起因性
裁判年月日 2017年2月23日
裁判所名 名古屋高裁
裁判形式 判決
事件番号 平成28年(行コ)34号
裁判結果 原判決取消、認容
出典 労働判例1160号45頁
労働経済判例速報2325号3頁
審級関係 確定
評釈論文 山川和義・広島法科大学院論集14号159~170頁2018年3月
判決理由 〔労災補償・労災保険/業務上・外認定/(2) 業務起因性〕
 発症前6か月の就労状況を見ると、発症前1か月は時間外労働時間数が少なくとも85時間48分以上であり、発症前2から6か月の時間外労働時間数は6分から62時間33分とばらつきがあるものの、発症前2か月の時間外労働時間数が5時間38分であって過重とはいえない程度のものであり、、発症前1か月間の時間外労働時間は少なくとも85時間48分であり、この時間外労働時間数だけでも、脳・心臓疾患に対する影響が発現する程度の過重な労働負荷であるということができる。
 しかも、Bにおいては、上記の時間外労働による負荷にうつ病による早期覚醒の症状が加わって、更に睡眠時間が減少したものと認められるから、Bは、発症前1か月間、睡眠時間が1日5時間程度の睡眠が確保できない状態、すなわち、全ての報告においても脳・心臓疾患の発症との関連につき有意性が認められる状態であったことは明らかである。したがってBは、発症前1か月間において、うつ病にり患していない労働者が100時間を超える時間外労働をしたのに匹敵する過重な労働負荷を受けたものと認められる。
 Bは、過重な時間外労働を余儀なくされ、それにうつ病による早期覚醒の症状が加わって更に睡眠時間が1日5時間に達しない程度にまで減少したことにより、血管病変等がその自然経過を超えて著しく増悪し、その結果心停止に至ったものと認められるところ、上記のとおりその時間外労働の時間数のみを捉えても脳・心臓疾患に対する影響が発現する程度の過重な労働負荷であったことからすれば、Bが心停止に至ったことについては、過重な時間外労働が主要な要因であったものというべきであり、上記の時間外労働と心停止との間に相当因果関係を認めることができる。
 Bが心停止によって死亡したことについて、業務起因性を肯定することができ、XがYに対してした労災保険法に基づく遺族補償給付等の請求は、その支給要件を満たしているものと認められる。