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ID番号 09156
事件名 未払賃金等請求控訴事件(2839号)、同附帯控訴事件(3136号)
いわゆる事件名 鳥伸事件
争点 定額残業手当の適法性と週所定労働時間44時間の適用の有無が問われた事案(労働者勝訴)
事案概要 (1) デパートの食品売り場にテナントとして入っている、鶏肉の加工・販売及び飲食店経営を行うY(被告、被控訴人)の経営する本件店舗の元従業員であったX(原告、控訴人)が、Yに対して時間外割増賃金および付加金の支払いを求めた事案である。
(2) 京都地裁は、残業手当の支払いをもって時間外労働割増賃金の代替としての支払と認めることはできないとして、Xの請求を一部認容した。
参照法条 労働基準法37条
労働基準法40条
労働基準法114条
体系項目 労基法の基本原則(民事)/適用事業/(1)事業の概念
労働時間(民事)/労働時間・休日の特例
賃金(民事)/割増賃金/(6) 固定残業給
裁判年月日 2017年3月3日
裁判所名 大阪高裁
裁判形式 判決
事件番号 平成28年(ネ)2839号/平成28年(ネ)3136号
裁判結果 控訴棄却
出典 労働判例1155号5頁
労働法律旬報1886号76頁
審級関係 確定
評釈論文
判決理由 〔労基法の基本原則(民事)/適用事業/(1)事業の概念〕
〔労働時間(民事)/労働時間・休日の特例〕
 本件店舗の従業員数は、Xの就業期間中8名であったと認められるから、「常時一〇人未満の労働者を使用するもの」に該当するといえる。
 労働基準法は事業所を単位として適用されるが、その趣旨は、各事業所における労働の態様により、労働時間その他に関する規定の適用を異にすべき必要があることに基づいている。
 したがって、独立した事業所であるか否かは、労働の態様の一体性の観点から、同一場所にあるものは原則として一個の事業所とし、場所的に分散しているものは原則として別個の事業所と解するのが相当である。
 もっとも、場所的に分散しているものであっても、規模が著しく小さく、組織ないし事務処理の観点から独立性が認められないものは、独立の事業所と認められないと解される。
 本件店舗は他の店舗から場所的に独立しているから、原則として別個の事業所と認めるべきものである。そして、本件店舗には店長が置かれ、本件店舗の営業面の独立性が認められ、本件店舗の従業員は、Yの全従業員の半分以上を占め、他店舗の従業員と重なってもいないから、規模上も人員配置上も独立しており、さらに、Xの採用時の人選及びシフト表の作成もB店長が行い、パート社員のタイムカードの打刻も本件店舗で行われているから、本件店舗では一定程度の人事労務権限を有し、そのための事務を行っているといえ、これらからすると、本件店舗には、規模、組織及び事務処理の観点から見て、一定の独立性があるといえる。
 したがって、本件店舗は独立の「事業」であると認められ、Xの所定労働時間は週44時間であると認められる。
〔賃金(民事)/割増賃金/(6) 固定残業給〕
 定額の手当が労働基準法三七条所定の時間外等割増賃金の代替として認められるためには、少なくとも、その旨が労働契約の内容となっており、かつ、定額の手当が通常の労働時間の賃金と明確に判別できることが必要であると解される。
 そもそも定額の手当が労働基準法37条所定の時間外等割増賃金の代替として認められる場合には、労働者は、それに見合う分だけ時間外等割増賃金の支払を受けないで労働することになるのであるから、給与として支給されるうち、通常の労働時間の賃金に相当する額が幾らで、時間外等割増賃金の代替額が幾らであるかは、労働者にとって、その条件で労働契約を締結するか否かを判断するに当たり極めて重要な事項であるというべきである。このことに鑑みると、それらが個別の労働契約や就業規則で明確にされないままに給与の総額のみで労働契約が締結されたにとどまる場合には、後に給与明細書でそれらの額が明確にされたとしても、給与明細書記載の手当の額を割増賃金代替手当の額とすることが労働契約の内容となったと評価することはできないというべきであり、労働契約締結時にこの区別が明確でない場合には、結局において、当該手当の支給を労働基準法37条所定の時間外等割増賃金の代替としての支給と認めることはできないと解するのが相当である。
 労働契約時において、給与総額のうちに何時間分の割増賃金代替手当が含まれているかが明確にされていたとも認められず、本件の残業手当の支払をもって、時間外労働割増賃金の代替としての支払と認めることはできない。