全 情 報

ID番号 09162
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 廣川書店(配転)事件
争点 不当な目的による就業場所変更の配転命令の違法性が問われた事案(労働者勝訴)
事案概要 出版社であるY(被告)の従業員であり、労働組合の組合員であるX1(原告)およびX2(原告)が、Yから、平成28年2月1日付けで、埼玉県A1市所在のA1分室で勤務するように命じられたこと(本件配転命令)について、これは就業場所の変更を伴う配転命令であるところ、Yには配転を命じる権限がないので、本件配転命令は法的根拠を欠き違法、無効である、そうでなくとも、本件配転命令は裁量権の濫用に当たり、または労組法7条1号所定の不当労働行為に当たり違法、無効であって、不法行為を構成すると主張して、Yに対し、それぞれ、A1分室に勤務する義務のない地位にあることの確認と、精神的苦痛の慰謝料50万円の支払を求めた事案である。
参照法条 民法709条
民法710条
労働契約法
体系項目 配転・出向・転籍・派遣/配転命令権の濫用 労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/(23)使用者に対する労災以外の損害賠償
裁判年月日 2017年3月21日
裁判所名 東京地裁
裁判形式 判決
事件番号 平成28年(ワ)12611号
裁判結果 一部却下、一部認容、一部棄却
出典 労働判例1158号48頁
審級関係 控訴
評釈論文
判決理由 :〔配転・出向・転籍・派遣/配転命令権の濫用〕
 XらがA1分室で行っている業務は基本的に従前と同様の内容であり、それらを敢えて本社社屋から片道約1時間かかるA1分室まで赴いて行う意味があるのか、大いに疑問がある上、Yが命じた勤務形態が、A1分室への往復に要する2時間程度の間は業務が処理できず、停滞を余儀なくされることも勘案すれば、本件配転命令は明らかに不合理であり、A1分室にXらを配転する業務上の必要性があるとは容易に認めることはできず、むしろ、このような配転には業務上の必要性がないという推定が働くというべきであり、営業部員の業務内容との関係からみても、本件配転命令に合理性があるとは認められない。
 本件配転命令には、前記前提事実のとおり、他の組合員の継続雇用に関する非組合員との差別的取扱いや団交拒否について、Yに対し、複数の不当労働行為救済命令が出されている中で発せられたという経緯があり、この経緯からは、Yが労働組合を嫌悪し、本社社屋から組合員を排除するという不当な目的をもって本件配転命令を発したことが推認されるというべきところ、この推認を覆すような証拠は見当たらず、前述のとおり、業務上の必要性が認められないことも、この推認を支えるものといえる。
 以上を総合考慮すると、本件配転命令は業務上の必要性がないといえ、同命令は裁量権を濫用したものとして違法、無効である。
〔労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/(23)使用者に対する労災以外の損害賠償〕
 本件配転命令は違法、無効であり、不法行為を構成するところ、Xらは、平成28年2月から長期間にわたって、一旦本社社屋に出勤し、タイムカードを打刻してからA1分室まで移動して業務を行った後、本社社屋に移動し、タイムカードを打刻して退勤するという、明らかに不合理であって業務上の必要性がなく、むしろ組合員を本社社屋から排除するという不当な目的に基づく勤務形態を余儀なくされ、外気を壁や扉で遮断する措置が講じられていない倉庫の一角での作業を強いられた上、Yからは、本件訴訟における主張と同様に、合理性の認められない説明等を繰り返すという対応を受け、相当の精神的苦痛を受けたことが認められ、諸事情も併せ考慮すると、この精神的苦痛に対する慰謝料としては、Xらそれぞれについて30万円を認めるのが相当である