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ID番号 09163
事件名 損害賠償等請求事件
いわゆる事件名 メトロコマース事件
争点 地下鉄売店勤務の契約社員について正社員の労働条件との不合理な格差の違法性が問われた事案(労働者敗訴)
事案概要 Y(被告)の契約社員として期間の定めのある労働契約(有期労働契約)を締結し、東京メトロ駅構内の売店で販売業務に従事してきたX(原告)らが、期間の定めのない労働契約を締結しているYの従業員がXらと同一内容の業務に従事しているにもかかわらず賃金等の労働条件においてXらと差異があることが、労働契約法20条に違反しかつ公序良俗に反すると主張して、不法行為又は債務不履行に基づき、差額賃金(本給・賞与、各種手当、退職金及び褒賞の各差額)相当額、慰謝料等の支払を求める事案である。
参照法条 民事訴訟法147条
民法90条
民法709条
労働契約法20条
体系項目 労基法の基本原則(民事)/均等待遇
裁判年月日 2017年3月23日
裁判所名 東京地裁
裁判形式 判決
事件番号 平成26年(ワ)10806号
裁判結果 一部認容、一部棄却
出典 労働判例1154号5頁
労働経済判例速報2312号3頁
労働法律旬報1895号54頁
審級関係 控訴
評釈論文 森戸英幸・ジュリスト1507号4~5頁
福谷賢典・金融法務事情2069号46~57頁
中井智子・労働経済判例速報2312号2頁
池邊祐子・労働法令通信2457号22~25頁
青龍美和子・季刊労働者の権利320号45~51頁
矢野昌浩・法学セミナー62巻9号111頁
滝沢香・労働法律旬報1895号38~39頁
陳菲菲・労働法律旬報1897号32~41頁
岡正俊・経営法曹195号75~84頁
判決理由 :〔労基法の基本原則(民事)/均等待遇〕
 労働契約法20条の「期間の定めがあることにより」という文言は、有期契約労働者の労働条件が無期契約労働者の労働条件と相違するというだけで、当然に同条の規定が適用されることにはならず、当該有期契約労働者と無期契約労働者の間の労働条件の相違が、期間の定めの有無に関連して生じたものであることを要するという趣旨であると解するのが相当である。
 同条は、有期契約労働者と無期契約労働者との間の労働条件の相違について、職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、「不合理と認められるものであってはならない」と規定し、「合理的でなければならない」との文言を用いていないことに照らせば、同条は、飽くまで問題とされている労働条件の相違が不合理と評価されるかどうかを問題としているというべきであり、合理的な理由があることまで要求する趣旨ではないと解される。したがって、同条の不合理性については、労働者は、相違のある個々の労働条件ごとに、当該労働条件が期間の定めを理由とする不合理なものであることを基礎付ける具体的事実(評価根拠事実)についての主張立証責任を負い、使用者は、当該労働条件が不合理なものであるとの評価を妨げる具体的事実(評価障害事実)についての主張立証責任を負うものと解するのが相当である
 Yの約600名の正社員のうち売店業務に従事する者はわずか18名(平成27年1月現在)であり、大半の正社員は、Yの各部署において売店業務以外の多様な業務に従事している。他方、Xらの地位たる契約社員Bは売店業務に専従し、数年おきに売店間での配置換えが行われることはあっても、売店業務以外の業務に従事することはない。また代務業務および複数の売店の統括・管理業務等を行うマネージャー業務を契約社員Bが行うことはない。したがってYの正社員と契約社員Bの間には、従事する業務の内容及びその業務に伴う責任の程度に大きな相違があるものと認められる。
 配置転換、出向が命じられるかどうかにつき差異があり、Yの正社員と契約社員Bの間には、職務の内容及び配置の変更の範囲についても明らかな相違があるということができる。
 Xらの主張する正社員と契約社員Bとの労働条件の相違のうち、割増賃金としての性質を有する早出残業手当に関する相違については、労働基準法37条が時間外労働等に対する割増賃金の支払を義務付けている趣旨は、時間外労働は通常の労働時間に付加された特別の労働であることから、使用者に割増賃金の支払という経済的負担を課すことにより時間外労働等を抑制することにあるため、使用者は、それが正社員であるか有期契約労働者であるかを問わず、等しく割増賃金を支払うのが相当というべきであるから、その相違は労働契約法20条に違反するものとして、X1とYとの労働契約のうち当該労働条件(早出残業手当)を定めた部分は無効であり、正社員よりも低い割増率による早出残業手当を支給したYの対応は、X1に対する不法行為を構成するというべきである。