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ID番号 09192
事件名 地位確認等請求控訴事件
いわゆる事件名 九州惣菜事件
争点 きわめて不合理な定年後の再雇用条件の違法性が問われた事案(労働者勝訴)
事案概要 (1) Y(被告、被控訴人)に雇用され定年に達したX(原告、控訴人)は定年退職前はフルタイムの労働者であったが、定年後、フルタイムでの再雇用を希望していたXを短時間労働者とする提案(「本件提案」)をYからされ、それを拒否したところ、XがYに対し、〈1〉主位的に、Yは高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(以下、「高年法」という。)9条1項2号に基づき継続雇用制度を設けているところ、XはYの提示した再雇用条件を承諾しなかったが、定年後もYとの間の雇用契約関係が存在し、その賃金につき定年前賃金の8割相当とする黙示的合意が成立していると主張し、Xが労働契約上の権利を有する地位にあることの確認および賃金の支払を求め、〈2〉予備的に、Yが、再雇用契約へ向けた条件提示に際し、賃金が著しく低廉で不合理な労働条件の提示しか行わなかったことは、Xの再雇用の機会を侵害する不法行為を構成する旨主張して、逸失利益金1663万2000円などの支払を求める事案である。
(2) 福岡地裁は、Xは再雇用に至らなかったから、Yとの間の労働契約上の権利を有する地位にあると認めることはできない、〈2〉Yが提示した労働条件が不合理なものとまでは認め難く、他にXの主張を裏付ける的確な主張立証も存しないから、Yについて不法行為の成立を認めることはできないとして、Xの請求をいずれも棄却した。
参照法条 民法709条
労働契約法20条
高年齢者等の雇用の安定等に関する法律9条
体系項目 労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/(23)使用者に対する労災以外の損害賠償
裁判年月日 2017年9月7日
裁判所名 福岡高裁
裁判形式 判決
事件番号 平成28年(ネ)911号
裁判結果 主位的請求棄却、予備的請求一部認容、一部棄却
出典 労働判例1167号49頁
労働経済判例速報2347号3頁
労働法律旬報1915号66頁
審級関係 上告、上告受理申立て
評釈論文 野田進・労働法律旬報1915号36~43頁
永原豪・経営法曹197号92~99頁
後藤究・労働法学研究会報69巻16号32~37頁
幡野利通(判例実務研究会)・労働法令通信2494号28~30頁
原昌登(東京大学労働法研究会)・ジュリスト1524号135~138頁
判決理由 〔労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/(23)使用者に対する労災以外の損害賠償〕
 労働契約法20条は、「有期労働契約を締結している労働者」の労働契約の内容である労働条件について規定するものであるが、Xは、定年退職後、Yと再雇用契約を締結したわけではないから、本件において、少なくとも直接的には、本条を適用することはできないというべきである。仮に、本件提案のような有期労働契約の申込みについても同条が適用されるとしても、Xが定年前の労働条件と本件提案を比較して問題とするのは主として賃金の格差であるところ、Yの就業規則上、賃金表は存在せず、パートタイム従業員もそれ以外の従業員も、主たる賃金は、能力及び作業内容等を勘案して各人ごとに定めるものとされているから、パートタイム従業員とそれ以外の従業員との間で、契約期間の定めの有無が原因となって構造的に賃金に相違が生ずる賃金体系とはなっていない。したがって、定年前の賃金と本件提案における賃金の格差が、労働契約に「期間の定めがあることにより」(同条)生じたとは直ちにいえず、本件提案が、労働契約法20条に違反するとは認められない。
 再雇用について、極めて不合理であって、労働者である高年齢者の希望・期待に著しく反し、到底受け入れ難いような労働条件を提示する行為は、継続雇用制度の導入という高年法の趣旨に違反した違法性を有するものであり、事業主の負う高年齢者雇用確保措置を講じる義務の反射的効果として当該高年齢者が有する、上記措置の合理的運用により65歳までの安定的雇用を享受できるという法的保護に値する利益を侵害する不法行為となり得ると解するべきである。
 本件提案の条件は定年前の賃金の約25パーセントに過ぎず、本件提案の労働条件は、定年退職前の労働条件との継続性・連続性を一定程度確保するものとは到底いえないため、本件提案が継続雇用制度の趣旨に沿うものであるといえるためには、そのような大幅な賃金の減少を正当化する合理的な理由が必要であるが、月収ベースの賃金の約75パーセント減少につながるような短時間労働者への転換を正当化する合理的な理由があるとは認められない。したがってYが、本件提案をしてそれに終始したことは、継続雇用制度の導入の趣旨に反し、裁量権を逸脱又は濫用したものであり、違法性があるものといわざるを得ず、その余の違法事由を検討するまでもなく、Xに対する不法行為が成立すると認められる。