全 情 報

ID番号 09201
事件名 賃金等本訴請求控訴事件、債務不存在確認反訴請求控訴事件
いわゆる事件名 学校法人札幌大学(給与支給内規変更)事件
争点 大学の給与内規の不利益変更の合理性が問われた事案(労働者勝訴)
事案概要 (1) Y(被告、控訴人)が設置するY大学で教員として勤務していたX(原告、被控訴人)らが、給与支給内規の変更は合理的でないとして、減額された差額部分の未払給与の支払を求め、またこれにより精神的苦痛を被ったとして、慰謝料請求を行い、反訴としてYが内規変更全体の合理性が認められないとしても、段階的に年俸額を減額する限度で合理性が認められることによりその一部が有効であるとして、その一部有効の確認を求めた事案である。
(2) 札幌地裁は、内規変更に合理性はないとして未払賃金請求を認容、慰謝料請求は棄却、Yの反訴の請求を棄却した。
参照法条
体系項目 就業規則(民事)/就業規則の一方的不利益変更/(3) 賃金・賞与
裁判年月日 2017年10月4日
裁判所名 札幌高裁
裁判形式 判決
事件番号 平成29年(ネ)184号
裁判結果 原判決一部取消自判
出典 労働判例1174号5頁
審級関係 確定
評釈論文
判決理由 〔就業規則(民事)/就業規則の一方的不利益変更/(3) 賃金・賞与〕
 本件内規変更による勤務延長教職員の年俸額の減額に関し一定の必要性はあったと認められるものの、本件内規変更によりXらに賃金額の大幅かつ急激な減額という重大な不利益が生ずること、同変更に際して上記のような不利益の重大性に対応する代償措置あるいは経過措置がとられていないこと、さらに、教職員組合との交渉が適切かつ十分なものではなかったこと等を総合考慮すると、本件内規変更は、そのような重大な不利益をXらに対して法的に受忍させることもやむを得ない高度の必要性に基づく合理的なものであったと解することはできないから、無効であるといわざるを得ない。
 就業規則の不利益変更は、その全体につき合理性・有効性を判断するのが原則であり、全体としては合理性を欠くものの、部分的に変更の合理性が承認できるとして当該部分のみを有効と認めることには慎重であるべきであり、これが認められるためには、少なくとも、一部有効と判断される部分をもって労働者と使用者との間の新たな労働条件として労使間の法律関係を規律するものとすることが客観的に相当であると判断でき、かつ、それが当事者の合理的意思にも反するものではないと評価できることが必要であると解すべきである。
 本件において、本件内規変更が部分的に合理性を承認し得るものであったとしても、一部有効とする部分を労使間の法律関係を規律するのに相当なものとして特定するための客観的基準は存在しないといわざるを得ない。