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ID番号 09206
事件名 賃金請求控訴事件
いわゆる事件名 国際自動車(差戻)事件
争点 タクシー乗務員の割増金を控除する歩合給の算定方式の違法性が問われた事案(労働者敗訴)
事案概要 (1) Y(被告、被控訴人兼控訴人、上告人)でタクシー乗務員として勤務していたXら(原告、控訴人兼被控訴人、被上告人)が、Yの定める就業規則中のタクシー乗務員賃金規則における歩合給(歩合給(1))の支給規定(以下「本件規定」)について、その計算過程で割増金(深夜手当、残業手当及び公出手当)と同額を控除することによって、実質的に割増金の支払を免れていることになるから、労働基準法(以下「法」)37条1項に違反し、あるいはその趣旨を潜脱し、公序良俗に反して無効であるなどとして、賃金の支払等を求めた事案である。
(2) 東京地裁は、歩合給の算定に当たり、割増金と同額を控除する部分が法37条1項の趣旨に違反し、公序良俗に反して無効であるとしたが、付加金請求は棄却し、XY双方が控訴。差戻審前の控訴審は、本件割増賃金の算定は、時間外労働を抑制するという法37条の趣旨に違反するとし、XYの控訴はいずれも棄却し、Yが上告。上告審は法37条に定める割増賃金を支払ったとすることができるか否かを判断するには、労働契約における賃金の定めにつき、それが通常の労働時間の賃金に当たる部分と、同条の定める割増賃金に当たる部分とに判別できるか否かを検討した上で行われるべきとして、控訴審に差し戻した。
参照法条 労働基準法37条
体系項目 賃金(民事)/割増賃金/(3) 割増賃金の算定方法
裁判年月日 2018年2月15日
裁判所名 東京高裁
裁判形式 判決
事件番号 平成29年(ネ)1026号
裁判結果 原判決一部取消自判
出典 労働判例1173号34頁
労働経済判例速報2341号3頁
労働法律旬報1915号48頁
審級関係 上告、上告受理申立て
評釈論文 水町勇一郎・ジュリスト1519号4~5頁
谷田和一郎・季刊労働者の権利325号84~88頁
指宿昭一、谷田和一郎・労働法律旬報1915号6~10頁
浜村彰・労働法律旬報1915号11~16頁
渡辺輝人・労働法律旬報1915号17~27頁
菊池和彦・労働法律旬報1915号28~32頁
高橋学・労働法律旬報1915号33~35頁
延増拓郎・経営法曹197号100~104頁2018年6月
石崎由希子・ジュリスト1522号97~102頁2018年8月
判決理由 〔賃金(民事)/割増賃金/(3) 割増賃金の算定方法〕
 法37条は、労働契約における通常の労働時間の賃金をどのように定めるかについて特に規定していないことに鑑みると、労働契約において売上高等の一定割合に相当する金額から同条に定める割増賃金に相当する額を控除したものを通常の労働時間の賃金とする旨が定められていた場合、当該定めが当然に同条の趣旨に反するものとして公序良俗に反し、無効と解することができないことは、本件上告審判決で判示されたとおりであり、本件規定は、法37条の趣旨に反するものではなく、公序良俗に反して無効ではないというべきである。
〔賃金(民事)/割増賃金/(6) 固定残業給〕
 賃金のうちで、基本給、服務手当及び歩合給の部分が、通常の労働時間の賃金に当たる部分となり、割増金を構成する深夜手当、残業手当及び公出手当が、法37条の定める割増賃金に当たる部分(ただし、残業手当の対象となる法内時間外労働の部分と、公出手当の対象となる法定外休日労働の部分は、法37条の定める割増賃金には当たらない。)に該当することになり、本件賃金規則においては、通常の労働時間の賃金に当たる部分と法37条の定める割増賃金に当たる部分とが明確に区分されて定められているということができる。
 本件では法37条等に定められた割増賃金の額を常に下回ることがないということができ、本件賃金規則においては、割増金の支払については、法37条の定める支給要件を満たしているというべきであって、YのXらに対する未払の割増金又は歩合給があるとは認められない。