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ID番号 09207
事件名 損害賠償請求控訴、同附帯控訴事件
いわゆる事件名 乙山青果ほか事件
争点 長期間いじめを受け自殺した社員についての安全配慮義務違反が問われた事案(労働者勝訴)
事案概要 (1) 青果物の仲卸業を目的とするY社(被告、被控訴人)に入社し総務部に配置されていたA(女性)の父母X(原告、控訴人)らが、〈1〉Y社の先輩従業員として、Aに対し指導を行うべき立場にあったY2(被告、被控訴人)およびびY3(被告、被控訴人)は、Aに対し、長期間にわたり、いじめ・パワーハラスメントを繰り返し行った、〈2〉Y社は、上記〈1〉の事態を放置した上、十分な引継ぎをすることなくAの配置転換を実施して、Aに過重な業務を担当させた、〈3〉上記〈1〉、〈2〉の結果、Aは、強い心理的負荷を受けてうつ状態に陥り、自殺するに至ったなどと主張して、Y2およびY3に対しては、民法709条に基づき、Y社に対しては、債務不履行(安全配慮義務違反)、民法709条および同法715条(選択的併合と解される)に基づき、損害賠償金の支払いを求めた事案である。
(2) 名古屋地裁は、Y2、Y3の言動や叱責の態様が不法行為に該当し、それらについてのY社の使用者責任を認めたが、これらがAの自殺の原因とはいえないとし、安全配慮義務違反の成立に関するXらの請求をいずれも棄却した。
参照法条 民法709条
体系項目 労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/(16)安全配慮(保護)義務・使用者の責任
裁判年月日 2017年11月30日
裁判所名 名古屋高裁
裁判形式 判決
事件番号 平成29年(ネ)216号/平成29年(ネ)439号/平成29年(ネ)482号/平成29年(ネ)489号
裁判結果 原判決変更自判、附帯控訴棄却
出典 判例時報2374号78頁
判例タイムズ1449号106頁
労働判例1175号26頁
労働経済判例速報2336号3頁
審級関係 上告受理申立て
評釈論文 小西康之・ジュリスト1516号4~5頁
小嶌典明・国際商事法務46巻6号880~884頁
中井智子(東京大学労働法研究会)・ジュリスト1522号132~135頁
判決理由 〔労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/(16)安全配慮(保護)義務・使用者の責任〕
 Y3のAに対する本件叱責行為は、社会通念上許容される業務上の指導の範囲を超えて、Aに精神的苦痛を与えるものであったと認められる。したがって、Y社としては、Y3の本件叱責行為について、これを制止ないし改善するように注意・指導すべき義務があったというべきである。Y社が、Y3の本件叱責行為およびY2の指導・叱責について、制止・改善を求めず、また、Aの業務内容や業務分配の見直し等を怠ったことは、Y社の義務違反に該当し、これらはY社の不法行為(民法709条)および債務不履行(安全配慮義務違反)に該当する。
 Y2およびY3から注意・叱責を受け、かつ、Y社が、Y2およびY3の注意・叱責を制止ないし改善を求めず、Aの業務内容や業務分配の見直しを検討しなかったことにより、Aが受けたY社の不法行為(使用者責任を含む)によるAの心理的負荷は、社会通念上、客観的に見てうつ病という精神障害を発症させる程度に過重なものであったと評価することができ、また、Y社の不法行為(使用者責任を含む)とAの自殺との間には、相当因果関係があると認めるのが相当である。
 一方、Y3の不法行為およびY2の不法行為については、上記のとおり、心理的負荷の程度は相応に大きいものであり、認定基準に当てはめると「中」と評価できるものであるが、それのみでうつ病を発症させる程度に過重なものであったと評価することはできず、したがって、Aの自殺との間に相当因果関係があると認めることもできないし、Y3およびY2において、Aの自殺について予見可能性があったということもできない。