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ID番号 09216
事件名 賃金請求控訴事件
いわゆる事件名 国際自動車(差戻審)事件
争点 歩合給から割増賃金分を差し引く給与支払いの労基法37条違反が争われた事案(労働者敗訴)
事案概要 (1) 一般旅客自動車運送事業等を営むY(被告、控訴人兼被控訴人、上告人)との間で労働契約(以下「本件労働契約」という。)を締結し、タクシー乗務員として勤務していたX(原告、控訴人兼被控訴人、被上告人)らが、Yに対し、Yの就業規則中のタクシー乗務員賃金規則(以下「本件賃金規則」)における歩合給の支給規定(以下「本件規定」)について、その計算過程で割増金(深夜手当、残業手当及び公出手当)と同額を控除することによって、実質的に割増金の支払を免れていることになるから、労働基準法(以下「法」という。)37条1項に違反し、あるいはその趣旨を潜脱し、公序良俗に反して無効であり、また、同じく本件規定において、歩合給として支給されるべき金額から交通費と同額を控除することは、実質的に交通費の支払を免れることになるので、交通費の支給を定めた本件労働契約の債務不履行に当たると主張し、本件労働契約による賃金請求権に基づいて、未払賃金等を求めた事案である。
(2)東京地裁は歩合給の算定に当たり、割増金と同額を控除する部分が法37条1項の趣旨に違反し、公序良俗に反して無効であるとして、歩合給算定にあたって控除した割増金の額の範囲でXの請求を認容したため、X、Yそれぞれが控訴。差戻前東京高裁は、本件規定において、歩合給の算定に当たり、割増金と同額を控除する部分は、同条の規制を潜脱してその趣旨に反し、ひいては公序良俗に反するものとして民法90条により無効であるとして、一審判決を維持した。
 最高裁は、本件規定の賃金の定めが当然に同条の趣旨に反するものとして公序良俗に反し、無効であると解することができないとしたほか、労働者に割増賃金として支払われた金額が、法37条等に定められた方法により算定した割増賃金の額を下回らないか否かについて判断するに当たっては、時間外労働等のうち法内時間外労働や法定外休日労働にあたる部分とそれ以外の部分を区別する必要がある旨を判示して、差戻し前の控訴審判決を破棄し、更に審理を尽くさせるとして差し戻した。
参照法条 労働基準法37条
体系項目 賃金(民事)/割増賃金/(3) 割増賃金の算定方法
裁判年月日 2018年2月15日
裁判所名 東京高判
裁判形式 判決
事件番号 平成29年(ネ)1026号
裁判結果 原判決一部取消自判
出典 労働判例1173号34頁
労働経済判例速報2341号3頁
労働法律旬報1915号48頁
審級関係 上告、上告受理申立て
評釈論文 水町勇一郎・ジュリスト1519号4~5頁2018年5月
谷田和一郎・季刊労働者の権利325号84~88頁2018年4月
柊木野一紀・労働経済判例速報2341号2頁2018年5月20日
指宿昭一、谷田和一郎・労働法律旬報1915号6~10頁2018年7月10日
浜村彰・労働法律旬報1915号11~16頁2018年7月10日
渡辺輝人・労働法律旬報1915号17~27頁2018年7月10日
菊池和彦・労働法律旬報1915号28~32頁2018年7月10日
高橋学・労働法律旬報1915号33~35頁2018年7月10日
延増拓郎・経営法曹197号100~104頁2018年6月
石崎由希子・ジュリスト1522号97~102頁2018年8月
吉田肇・民商法雑誌155巻3号114~122頁
判決理由 〔賃金(民事)/割増賃金/(3) 割増賃金の算定方法〕
 「法37条は、労働契約における通常の労働時間の賃金をどのように定めるかについて特に規定していないことに鑑みると、労働契約において売上高等の一定割合に相当する金額から同条に定める割増賃金に相当する額を控除したものを通常の労働時間の賃金とする旨が定められていた場合、当該定めが当然に同条の趣旨に反するものとして公序良俗に反し、無効と解することができないことは、本件上告審判決で判示されたとおりであ」り、「本件規定は、法37条の趣旨に反するものではなく、公序良俗に反して無効ではないというべきである。」。
 歩合給の「算定に当たり割増金を控除する旨を定めた本件規定は、タクシー業務の実態に即して、賃金面から乗務員に労働効率化の動機付けを与えて、非効率的な時間外労働を抑止し、効率的な営業活動を奨励するため、労使間の協議の末に協定成立に至っているものであるから、協定締結の事実も合理性を裏付ける事情と認められる」。 その労働時間の「長さを考慮するための方法として割増金の控除を定めたとしても、上記のとおり通常の労働時間の賃金であることの性格を失わず、法37条の定める明確区分性には反しない」。
 「本件賃金規則では、割増賃金として支払われる金額は、賃金算定期間において出来高払制その他の請負制によって計算された賃金の総額(歩合給(1))ではなく、割増金を控除する前の対象額Aを計算の基礎とするから、それを控除した後の歩合給(1)に相当する部分の金額を基礎として算定する法37条等に定められた割増賃金の額を常に下回ることがない」ため、「本件賃金規則においては、割増金の支払については、法37条の定める支給要件を満たしているというべきであって、YのXらに対する未払の割増金又は歩合給があるとは認められない」。
 歩合給の「計算過程で割増金を控除することが、法37条に違反せず、Yが乗務員に対して割増金を加算した賃金を支給していることは前記のとおりであるから、法24条に違反していないというべきである」。本件賃金規則における定めにより、歩合給が、「「賃金算定期間において出来高払制その他の請負制によって計算された賃金の総額」に当たると解するのが相当である」。