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ID番号 09242
事件名 雇用契約上の地位確認等請求事件
いわゆる事件名 フーズシステムほか事件
争点 妊娠出産を契機とする有期契約転換およびその後の雇止めの有効性など問われた事案(労働者勝訴)
事案概要 被告Y1に期間の定めなく雇用され、事務統括という役職にあった原告Xが、自身の妊娠、出産を契機として、Yの取締役である被告Y2及びYの従業員から、意に反する降格や退職強要等を受けた上、有期雇用契約への転換を強いられ、最終的に解雇されたところ、上記降格、有期雇用契約への転換及び解雇(解雇等)がいずれも無効であるとして、主位的請求として、Y1に対し事務統括としての雇用契約上の権利を有する地位にあること、年次有給休暇請求権の確認、未払賃金等の支払を求めるとともに、上記解雇等がXに対する雇用契約上の就労環境整備義務違反又は不法行為に当たるとして、Y1およびY2に対して損害賠償を求め、予備的請求として、有期雇用契約に基づき、被告会社に対し、有期雇用契約上の権利を有する地位確認、未払賃金、損害賠償等の支払を求めた事案である。
参照法条 民法709条
民法710条
民事訴訟法134条
民事訴訟法247条
労働基準法65条
労働契約法16条
育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律23条、23条の2
雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律9条
体系項目 女性労働者(民事)/育児期間
労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/(25)担務変更・勤務形態の変更
解雇(民事)/解雇権の濫用
裁判年月日 2018年7月5日
裁判所名 東京地裁
裁判形式 判決
事件番号 平成29年(ネ)1453号
裁判結果 一部認容、一部棄却
出典 労働判例1200号48頁
労働経済判例速報2362号3頁
審級関係 確定
評釈論文
判決理由 〔女性労働者(民事)/育児期間〕 〔労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/(25)担務変更・勤務形態の変更〕
 XがY1との間において平成24年4月1日付けで締結した当初雇用契約書には雇用期間の終期の記載がなく、「諸事情を総合考慮すると、当初契約書に基づいて締結されたXとY1との間の当初雇用契約は、嘱託社員としての雇用契約であるものの、期間の定めのないものと認めるのが相当である。」
 育児介護休業法23条の2の規定は、「上記の目的を実現するためにこれに反する事業主による措置を禁止する強行規定として設けられたものと解するのが相当であり、育児のための所定労働時間の短縮申出及び同措置を理由として解雇その他不利益な取扱いをすることは、同項に違反するものとして違法であり、無効であるというべきである」。「もっとも、同法23条の2の対象は事業主による不利益な取扱いであるから、当該労働者と事業主との合意に基づき労働条件を不利益に変更したような場合には、事業主単独の一方的な措置により労働者を不利益に取り扱ったものではないから、直ちに違法、無効であるとはいえない。
 ただし、労働者が使用者に使用されてその指揮命令に服すべき立場に置かれており、当該合意は、もともと所定労働時間の短縮申出という使用者の利益とは必ずしも一致しない場面においてされる労働者と使用者の合意であり、かつ、労働者は自らの意思決定の基礎となる情報を収集する能力にも限界があることに照らせば、当該合意の成立及び有効性についての判断は慎重にされるべきである。そうすると、上記短縮申出に際してされた労働者に不利益な内容を含む使用者と労働者の合意が有効に成立したというためには、当該合意により労働者にもたらされる不利益の内容及び程度、労働者が当該合意をするに至った経緯及びその態様、当該合意に先立つ労働者への情報提供又は説明の内容等を総合考慮し、当該合意が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在することが必要であるというべきである」。
 「XとY1とのパート契約締結は、Xに対して従前の雇用契約に基づく労働条件と比較して相当大きな不利益を与えるもの」であり、「Y2は…経営状況を詳しく説明したことはなかったこと、…Y2は、Xに対し、勤務時間を短くするためにはパート社員になるしかないと説明したのみで、嘱託社員のまま時短勤務にできない理由についてそれ以上の説明をしなかったものの、実際には嘱託社員のままでも時短勤務は可能であったこと、パート契約の締結により事務統括手当の不支給等の経済的不利益が生ずることについて、Y1から十分な説明を受けたと認めるに足りる証拠はないこと」、Xは「第1子の出産により他の従業員に迷惑をかけているとの気兼ねなどから同契約の締結に至ったことなどの事情を総合考慮すると、パート契約が原告の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在すると認めることはできな」ず、パート契約への変更は無効である。
〔解雇(民事)/解雇権の濫用〕
 「Xが殊更にY1を批判して他の従業員を退職させたことを認めるに足りる証拠はないこと、前記認定に係るXが他の従業員のパソコンを使用した理由は違法又は不当なものとまではいえないこと、Y1の経営状況がXの解雇を相当とするほどに悪化していたことを認めるに足りる証拠はないことなどの事情を総合考慮すると、Y1による解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められないから、労働契約法16条により無効というべきである。」