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ID番号 09259
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 フルカワほか事件
争点 脳梗塞を発症し後遺障害を負った社員に対する安全配慮義務違反が問われた事案(労働者勝訴)
事案概要 新車、中古車の卸小売販売等を目的とする被告Y1の従業員であったXが、Y及びその代表取締役であるY2に対し、Xが脳梗塞を発症し、後遺障害が残ったのは、Y1におけるXの業務に起因するものであるなどと主張して、Y1に対しては民法415条に基づき、Y2に対しては会社法429条1項に基づき、損害賠償金の一部(家屋改造費、介護器具費及び車椅子購入費に係る損害を除く損害に対する賠償金)として1億5111万7077円及びこれに対する遅延損害金の連帯支払を求める事案である。
参照法条 民法415条
会社法355条
会社法429条
体系項目 労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/(16)安全配慮(保護)義務・使用者の責任
裁判年月日 2018年11月30日
裁判所名 福岡地裁
裁判形式 判決
事件番号 平成27年(ワ)1442号
裁判結果 一部認容、一部棄却
出典 判例時報2419号75頁
労働判例1196号5頁
審級関係 控訴
評釈論文
判決理由 〔労働契約(民事)/労働契約上の権利義務/(16)安全配慮(保護)義務・使用者の責任〕
 「Xは、本件疾病の発症前6か月間に、月平均174時間50分の時間外労働を行っており、恒常的に長時間労働に従事していたといえる上、本件疾病の発症前1か月間にも、150時間15分の時間外労働を行っている」。「そうすると、本件疾病発症前6か月間におけるXの労働時間は、本件疾病の発症と強い関連性を有する程度の著しい長時間労働であったといえる」。
 「目標が達成できない場合に、特にペナルティがなかったことを考慮しても、本件店舗の店長であった原告は、自己及び本件店舗の目標を達成するために、相応の精神的緊張を伴う業務に従事していたというべきであ」り、「精神的緊張によるストレスは、発症の要因となり得るものとされていることが認められるから、この点でも、Xの業務は、前記(ア)の長時間労働とあいまって本件疾病の発症の要因となり得るものであった」。
 「本件全証拠によっても、本件疾病の発症について、他に、業務以外の確たる発症因子があったとは認められ」ず、「Xの本件疾病は、Xの動脈硬化が、前記アのような過重な業務に伴う負荷によりその自然経過を超えて悪化したことによって発症したものとみるのが相当である」。
 「Y1におけるXの業務と本件疾病の発症との間には、相当因果関係が認められるというべきである」。
 「Xの従事していた業務に伴う負荷は、客観的にみて、本件疾病を発症させるに足りる程度に過重なものであり、とりわけ、Xが従事していた恒常的な長時間労働は、著しい疲労の蓄積を生じさせる程度のものであったことからすると、Y1は、上記義務の一内容として、Xの健康状態及び労働時間その他の勤務状況を的確に把握した上で、Xに過度の負担が生じないようXの業務の量又は内容を調整する措置を講ずるべき注意義務を負っていた」。
 「会社法429条1項は、株式会社における取締役の地位の重要性に鑑み、取締役の職務懈怠によって株式会社が第三者に損害を与えた場合に、当該第三者を保護するため、法律上特別に取締役の責任を定めたものであると解されるところ、労使関係は企業経営について不可欠なものであり、株式会社の従業員に対する安全配慮義務は、労働基準法、労働安全衛生法及び労働契約法の各法令からも導かれるものであることからすると、株式会社の取締役は、会社に対する善管注意義務として、会社が安全配慮義務を遵守する体制を整備すべき義務を負うものと解するのが相当であ」り、「Y2は、少なくともXの本件疾病発症前6か月間、Y1の取締役として、従業員の過重労働等を防止するための適切な労務管理ができる体制を何ら整備していなかったといえ」、「Y2は、悪意又は重大な過失によりXに本件疾病の発症による損害を生じさせたものというべきである」。
 「他方で、本件全証拠によっても、本件疾病発症当時におけるXの動脈硬化の自然経過による増悪の程度は明らかではないことに加え、Y1におけるXの業務の過重性の程度や、Xの業務に対するY2の関与の内容及び程度をも考慮すると、本件においては、Y1らの賠償すべき損害の額を定めるに当たり、2割を減額する限度で本件既往症の存在をしんしゃくするのが相当であ」り、「Y1らの賠償すべきXの損害の合計額は、前記サの損害てん補後の損害額8250万9566円に前記シの弁護士費用825万円を加えた9075万9566円となる」。