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ID番号 09266
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 トライグループ事件
争点 成果主義・能力主義型賃金体系への就業規則変更の合理性などが問われた事案(労働者敗訴)
事案概要 家庭教師派遣、個別指導塾、通信制高等学校サポート校、幼児向け英語教育等を業とする被告Yに雇用され総務人事、財務経理等の業務に従事してきた原告Xが、〈1〉平成26年4月1日に施行されたYの就業規則及び給与規程は、従前の給与体系を人事評価に基づく給与減額を可能にする成果主義・能力主義的給与体系へと変更するものであって、労働条件の不利益変更に当たり、合理性がないから無効であるとして、変更後の上記就業規則等の無効確認、〈2〉同年12月25日以降のXに対する賃金減額も、無効な変更後の上記就業規則等を根拠とするもので同様に無効であり、仮に上記就業規則等の変更が有効であるとしても、Xに対する各人事評価はいずれも裁量権を濫用したものであって、これに基づく賃金減額は無効であるなどと主張して、雇用契約に基づく差額の支払、〈3〉東京校教師管理課への配転命令は、Xが基本給減額に抗議したことに対する報復であり、権利濫用に当たり無効であるとして、Yに対し、東京校教師管理課で就労する義務がないことの確認、〈4〉本件訴訟の口頭弁論の終結直前である平成29年10月17日付けのAC回収課への配転命令は、業務上の必要性がなく、原告に精神的苦痛を与えるという不当な動機、目的に基づくもので同様に権利濫用に当たり無効であるとして、Yに対し、AC回収課に就労する義務がないことの確認、〈5〉平成25年4月以降、YがXに対して行った一方的な給与減額、関連会社への出向命令、多数の反省文及び始末書の作成命令、配転命令、単純業務命令等はいずれも違法であり、精神的苦痛を受けたとして、Yに対し、不法行為に基づく損害賠償として、慰謝料500万円及び弁護士費用50万円の合計550万円の各支払を求めた事案である。
参照法条 民法709条
民法715条
民事訴訟法134条
民事訴訟法247条
労働契約法10条
体系項目 就業規則(民事)/就業規則の一方的不利益変更/(3) 賃金・賞与
労働契約(民事)/人事権
賃金(民事)/賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額
配転・出向・転籍・派遣/配転命令権の濫用
裁判年月日 2018年2月22日
裁判所名 東京地裁
裁判形式 判決
事件番号 平成29年(行コ)30号
裁判結果 一部却下、一部棄却
出典 労働経済判例速報2349号24頁
審級関係
評釈論文 仲琦(東京大学労働法研究会)・ジュリスト1539号129~132頁
判決理由 〔就業規則(民事)/就業規則の一方的不利益変更/(3) 賃金・賞与〕
 「就業規則により、年功序列的な賃金制度を人事評価に基づく成果主義・能力主義型の賃金制度に変更する場合において、当該制度変更の際に、賃金の原資総額が減少する場合と、原資総額は減少せず、労働者全体でみれば、従前と比較して不利益となるわけではなく、個々の労働者の賃金の増額と減額が人事評価の結果として生ずる場合とでは、就業規則変更の合理性の判断枠組みを異にするというべきである。すなわち、賃金原資総額が減少する場合は別として、それが減少しない場合には、個々の労働者の賃金を直接的、現実的に減少させるのは、賃金制度変更の結果そのものというよりも、当該労働者についての人事評価の結果であるから、前記の労働者の不利益の程度及び変更後の就業規則の内容の合理性を判断するに当たっては、給与等級や業務内容等が共通する従業員の間で人事評価の基準や評価の結果に基づく昇給、昇格、降給及び降格の結果についての平等性が確保されているか否か、評価の主体、評価の方法及び評価の基準、評価の開示等について、人事評価における使用者の裁量の逸脱、濫用を防止する一定の制度的な担保がされているか否かなどの事情を総合的に考慮し、就業規則変更の必要性や変更に係る事情等も併せ考慮して判断すべきである」。
 「諸事実を総合すると、本件就業規則変更は、経営上の必要性に合致する成果主義・能力主義型の賃金制度を導入するものであり、賃金の原資総額を減少させるものではなく、濫用、逸脱を防止する一定の制度的担保がある人事評価制度に基づいて昇給、降給等が平等に行われるなど、合理性のある新たな制度に変更するものであるから、有効であるというべきであ」り、「変更後の新就業規則、新給与規程等について周知性を認めることができるから、同就業規則及び給与規程等は、Xに対してもその効力を有する。」
〔労働契約(民事)/人事権〕
〔賃金(民事)/賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額〕
 「雇用契約の内容として、使用者は労働者の人事評価一般について広範な裁量権を有すると解されるから、Yが本件人事考課制度の下で行う人事評価の内容についても、Yの広範な裁量的判断に委ねられるとするのが相当である。したがって、Yにおいて、Xに対する人事評価について、評価の対象となる事実の基礎を欠き、又は事実の評価が著しく合理性を欠く場合や、不当な動機、目的に基づいて評価をしたなどの裁量権の逸脱、濫用がない限り、人事評価に基づいてされたXの賃金減額は有効であるというべきである」。
 「本件各評価及び平成27年11月以降の各人事評価について、前判示に係るXの業務態度や上長との業務上のコミュニケーション等の各事実に基づき、Yにおいて、Xの業務態度、業務遂行、改善及び組織環境構築等の各評価項目について、最低の評価を継続していることにつき、事実の基礎を欠く又は事実に対する評価が合理性を欠くなどの事情があるとはいえず、また、Yが人事評価と関係のない不当な動機、目的に基づいて評価を行ったことも認められないから、Yに裁量権の範囲の逸脱、濫用があったということはでき」ず、「Xに対する人事評価は不当なものではなく、人事評価によるXの職能手当減額は有効であるから、同手当の減額分を請求する請求の趣旨第2項の請求は、理由がない」。
〔配転・出向・転籍・派遣/配転命令権の濫用〕
 「本件配転命令2が、業務上の必要性のない、嫌がらせや報復を動機、目的としたものであるということはできず、通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものともいえない。したがって、XがAC回収課で就労する義務のないことの確認を求める請求の趣旨第4項の請求には、理由がない」。