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ID番号 09516
事件名 無期労働契約の地位確認及び損害賠償請求事件
いわゆる事件名 学校法人専修大学(無期転換)控訴事件
争点 科技イノベ活性化法2条11項の「研究者」の意味
事案概要 (1)本件は、控訴人(一審被告:学校法人専修大学)との間で、平成元年から外国語の非常勤講師として、有期労働契約を締結・更新している被控訴人(一審原告)が、控訴人に対し、令和元年6月20日、労働契約法18条1項に基づき無期転換の申込みをしたが、控訴人は、被控訴人と控訴人との間の労働契約は、科学技術・イノベーション創出の活性化に関する法律(以下「科技イノベ活性化法」という。)15条の2第1号に該当し、契約期間が10年を超えるまで無期転換申込権は発生しないとして、被控訴人に無期転換申込権を認めなかった。このため、被控訴人は、控訴人との間に、当時の有期雇用契約の契約期間満了日の翌日(令和2年3月14日)を始期とする期間の定めのない労働契約が成立したと主張し、かつ、令和元年12月16日以降、前記始期に至るまで、控訴人が被控訴人に対し無期転換申込権を認めない取扱いをしたことは違法であると主張して、期限の定めのない労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、不法行為に基づく慰謝料100万円の支払等を求める事案である。
(2)原審は、被控訴人が期限の定めのない労働契約上の権利を有する地位にあることを認容し、慰謝料請求を棄却した。これに対し、控訴人が請求全部の棄却を求めて控訴した。
(3)控訴審判決は、原判決は相当であって、本件控訴は理由がないとして、控訴を棄却した。
参照法条 労働契約法18条
科学技術・イノベーション創出の活性化に関する法律15条の2
大学の教員等の任期に関する法律5条
体系項目 労働契約 (民事)/ 労働契約の期間
裁判年月日 令和4年7月6日
裁判所名 東京高裁
裁判形式 判決
事件番号 令和4年(ネ)63号
裁判結果 控訴棄却
出典 労働判例1273号19頁
D1-Law.com判例体系
審級関係 上告、上告受理申立て
評釈論文 本久洋一(労働判例研究会)・法律時報95巻4号142~145頁2023年4月
高仲幸雄・経営法曹216号142~145頁2023年6月
鶴崎新一郎(社会法判例研究会)・法政研究〔九州大学〕89巻4号161~175頁2023年3月
高橋聡子・季刊労働法281号199~208頁2023年6月
判決理由 〔労働契約 (民事)/ 労働契約の期間〕
(1)控訴人は、科技イノベ活性化法2条11項では「研究者」自体の意味は明らかにされていないから、「研究者」の意味ないし範囲は、国語的に、又は社会通念に従って解釈されなければならないところ、同法15条の2第1項1号は、文言上、研究開発法人又は大学等を設置する者との間で締結した有期労働契約に基づいて従事すべき業務内容について何も規定していないこと、同条2項は、授業の補助のみを業務内容とし、研究開発業務及びこれに関連する業務に従事していない学生(ティーチング・アシスタント)も同条1項1号の「研究者等」に該当することを前提とした規定であること、「研究者」は研究開発及びこれに関連する業務に従事している者であることを要すると解したのでは同法の他の条項(同法15条の2第1項3号や9条)と整合しないこと等から、同号の「研究者」に「研究開発業務及びこれに関連する業務に従事している者」という意味が含まれるものとすべきではないと主張する。しかし、同号の「研究者」の意味は、同法15条の2の趣旨から検討すべきところ、その趣旨は、前記のとおり(「研究者」というには、研究開発法人又は有期労働契約を締結した者が設置する大学等において研究開発及びこれに関連する業務に従事している者であることを要するものであること、研究業績を有する者、大学を設置する者の採用選考において研究実績を考慮された者であることをもって、「研究者」と認めることはできないこと)である。また、同条2項は、大学に在学している間に研究開発法人又は大学等を設置する者との間で有期労働契約を締結していた者について、当該大学に在学している期間は、労契法18条1項の通算契約期間に算入しないと定めたものであり、控訴人が指摘する説明資料の記載を踏まえても、ティーチング・アシスタントについて、研究開発業務及びこれに関連する業務に従事していない場合にも科技イノベ活性化法15条の2第1項1号の「研究者」に該当することを前提とするものとはいえない。控訴人が指摘するその他の条項も、同条1項1号の「研究者」を研究開発及びこれに関連する業務に従事するため有期労働契約を締結している者であることを要すると解した場合に矛盾が生じるとはいえない。したがって、控訴人の上記主張は採用できない。