全 情 報

ID番号 10030
事件名 労働基準法違反被告事件
いわゆる事件名 入善町役場事件
争点
事案概要  町営じん芥焼却場においてじん芥焼却作業中の労働者が右焼却場に転落して死亡した事件につき使用者の安全義務違反が問われた事例。
参照法条 労働基準法10条
労働基準法42条
体系項目 労基法総則(刑事) / 使用者
裁判年月日 1971年7月20日
裁判所名 名古屋高金沢支
裁判形式 判決
事件番号 昭和45年 (う) 53 
裁判結果 有罪(罰金3,000円)
出典 刑裁月報3巻7号847頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労基法総則-使用者〕
 被告人が労働基準法四二条、一〇条にいう「使用者」に当るか否かにつき審究考察するに、右「使用者」に当るというためには、事業における危害防止の措置を講ずるにつき実質的に一定の決定、処分をなす権限を有する者でなければならず、単に上司の命令を伝達するにすぎない者はこれに当らないが、この場合、具体的な措置の履践あるいはこれに伴なう経費の支出等を決するにつき終局的な権限を有する地位にある者に限られると解すべきではない。このことは、同法一〇条が広く「その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者」を「使用者」と定め、職場における直接の労務担当者にも同法各条所定の義務を課し、労働者の保護に遺憾なきを期しているその精神に照して明らかである。そうだとすれば、町営の事業に対する管理体系が、町役場の町長、助役、課長、係長、主事等の職制により階層的かつ重畳的な構造をなしている場合において、係長として、その係の所轄に属する事業について、直接事業設備の管理、及びこれに就労する労働者の指揮監督に当り、したがつて、危害の発生を防止するために必要な措置を講ずるにつき、課長その他の上司に対策を進言し、その履行を促すべき権限を有し責任を負う地位にある場合には、たとえ、該対策実施に必要な経費を支出する権限を有しない者であつても、なお、これを右の「使用者」に当ると解するのが相当である。けだし、労働者の作業現場の安全は、現場における直接の監督者の注意によらなければ確保することが困難であり、これ等の者の報告によらなければ、経費支出の権限を持つ上司はその対策を講ずることができないからである。そうして見ればこのような地位にある者は、災害の防止について行つた進言を上司が拒否したような特別な事由がない限り、使用者としての責任を免れないと言わねばならぬ。