全 情 報

ID番号 10146
事件名 労働基準法違反被告事件
いわゆる事件名
争点
事案概要  原石処理事業として、労働者を供給し、これら労働者の就業に介入して利益を得たという職安法および労基法違反の事実の認定につき、就業に介入された労働者、および利益の特定がなされていないとして、原判決に違法ありとした事例。
参照法条 労働基準法6条
労働基準法118条1項
体系項目 労基法総則(刑事) / 中間搾取
裁判年月日 1956年5月25日
裁判所名 名古屋高
裁判形式 判決
事件番号 昭和29年 (う) 1139 
裁判結果 破棄・自判
出典 高裁刑特報3巻11号578頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労基法総則-中間搾取〕
 論旨は、原判決には理由不備の違法がある。即ち、原判示第一の事実において、被告人が、A工業に対し、B外十九名の労働者を供給し、これ等労働者の就業に介入して、各労働者の日給より三十円乃至五十円宛の利益を得ていた旨を認定しているが、原判決添付の人夫賃支払状況表によるも、労働者の誰から幾何の利益を得ていたのか全然判明せず、唯各労働者の日給より三十円乃至五十円宛の利益を得ていたというだけであつて、犯罪構成要件となつている利益を得ていた相手方と金額が明瞭ではないというのである。
 なるほど、原判決の判示事実は、所論指摘のとおりであつて、被告人が就業に介入した労働者が添付の人夫賃支払状況表記載の労働者全員であるのか、又、その中の誰から幾何の利益を得たのか、明確ではない。労働基準法第六条所定の他人の就業に介入して利益を得るという犯罪において、その就業に介入された労働者から利益を得た場合においては、就業に介入された労働者は誰であり、その労働者から何時幾何の利益を得たかを特定することを要するものと解すべきであり、これを特定できなければ、罪となるべき事実の判示としては、理由不備の違法があるというべきである。論旨は理由がある。なお、職権を以て調査するに、原判決は、判示第一の事実として、昭和二十八年二月頃より昭和二十九年二月末日頃まで、B外十九名の労働者の就業に介入して利益を得た旨を認定し、更に、判示第二の事実として、昭和二十九年三月一日労働者B外九名の同年二月分の労働賃金五万三千八百六十六円を着服横領した旨を認定しているのであるが、右第二の事実によれば、昭和二十九年二月分の各労働者の賃金は、すべて被告人が着服したものであつて、各労働者の就業に介入して利益を得たという関係は全くなかつたといわざるを得ない。然るに、右第一の事実によると、昭和二十九年二月末頃まで就業に介入して利益を得たことを認定しているのであつて、添付の人夫賃支払状況表には、昭和二十八年二月より昭和二十九年六月までの各労働者別の各月の賃金額を掲記してあるのであるから、判示第一の事実においては、昭和二十九年二月分については、果して就業に介入し、利益を得た犯罪として認定されているのであるか否か不明であり、若しこれをも認定してあるものとすれば判示第二の事実との対照上、理由にくいちがいがあるといわねばならない。結局、原判決には、理由不備又は理由くいちがいの違法があるというべきである。