全 情 報

ID番号 10203
事件名 労働基準法違反被告事件
いわゆる事件名
争点
事案概要  賃金不払罪の成立につき、期待可能性の法理の適用が争われた事例。
参照法条 労働基準法24条
体系項目 賃金(刑事) / 賃金の支払い方法 / 定期日払い
裁判年月日 1951年5月19日
裁判所名 福岡高
裁判形式 判決
事件番号 昭和25年 (う) 2884 
裁判結果 破棄差戻
出典 高裁刑集4巻7号674頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔賃金-賃金の支払い方法-定期日払い〕
 しかし(1)企業が使用労働者の賃金を長期に亘つて支払ひ得ないやうな場合は其の原因及将来の見通によつては経営の規模の縮少、人員の整理合理化をも必要とする場合もあるのであるところ、本件炭坑が判示のやうな原因から経営が困難となり、石炭代収入が減じたこと、及被告人が金融に或程度奔走したことは原判決挙示の証拠で認められるが証人Aの検察官に対する上申書(一)乃至(四)及同人の原審公判廷の証言によつて明かなやうに本件賃金の不払は昭和二十三年十一月分以降昭和二十四年七月分までの長期に及ぶものであり且昭和二十三年十月分以前にも賃金の不払があつたのであるから、本件炭坑の経営については被告人が其の経営の規模使用人員数等の適否について検討し如何なる手段方法を講じたか否かにつき、(2) (中略)
 被告人に於て賃金支払資金入手のため如何なる程度の奔走方をしたか又不要不急資産にして処分換価しうるものの有無、右期間内の収入金額及其の費途、出炭運炭の成績を上げるための努力の程度等につき、(3)更に昭和二十四年四月五日に於て被告人は石炭代四十六万円の収入あり内約半額は炭坑経営のための資材の購入及従前の賃金支払のための借入金の支払に充てたことは原判決の認定するところであるが賃金の支払をなさず従前の借入金の支払に充てた場合には借入金の性質、借入の条件等を審究せずして従前の賃金の支払のために借入金なればとて賃金の支払に優先し得るものとは断じ難い(尤も原審判決は労働組合との話合の上其の支出を決定したかの如き認定をしてゐるが証人Bの証言によれば軽々に其の認定をなし難い)ので右借入金の性質、返済期其の他借入の条件等につき、更に一段の審理を尽くした後でなければ期待可能性ありや否や断定することは出来ない。
 原審が右諸点につき審理を尽くさず前示のやうな認定から直ちに期待可能性なしとしたことはいささか審理不尽のそしりを免れない。