全 情 報

ID番号 10252
事件名
いわゆる事件名 大同製鋼事件
争点
事案概要  賃金の遅配がいかなる場合に違法性を阻却されるかが問題となった事例。
参照法条 労働基準法24条
体系項目 賃金(刑事) / 賃金の支払い方法 / 定期日払い
裁判年月日 1950年10月16日
裁判所名 名古屋地
裁判形式 判決
事件番号
裁判結果
出典
審級関係
評釈論文
判決理由 〔賃金-賃金の支払い方法-定期日払い〕
 然るところ検察官は右の賃金遅払は被告人等に労働基準法第二十四条違反も責任ありと主張し被告人並弁護人は会社経理状況に照して最善の努力をつくしても賃金遅払は已むを得なかつた即ち何人がその地位にあつても賃金の完配は期待できなかつたのだから刑事責任は阻却されると抗争するのでこの点について判断するのに労働者にとつて賃金の遅払がいかに深刻な影響を与えるか論を俟たないところで理由の如何を問わず使用者の重大なる罪悪と謂うべきである。さればこそ労働基準法は使用者に刑罰を以て臨み、かかることがないよう期待し労働者を保護しているのである。さりながら刑罰である以上使用者が予期せざる天変事変の不可抗力によつて賃金の支払を遅延した場合には使用者に本条違反の刑責がないとするに、何人も異論がないであろう。
 更に一歩を進めて被告人等主張の如く使用者が社会通念上最善の努力を尽したに拘らず賃金を遅払した即ち何人がその地位に立つも賃金の完配は期待できなかつた場合には違法性は阻却されるかは問題がある。労働基準法は労働者保護の最低基準を定めて労働者を保護せんとするものであるから之に違反すれば不可抗力の場合以外使用者を処罰して、その基準を厳守せしむるの必要があるとも考えられるけれどもいかに労働基準法であつても使用者に不可能を強いるものとは考えられないから一般刑事の法理と同様使用者の社会通念上なすべき最善の努力を傾倒し何人がその地位にあつても賃金の遅払は已むを得なかつたであろうと認められる場合には本条違反の違法性は阻却されるものと解するのが相当である。