全 情 報

ID番号 10263
事件名
いわゆる事件名 東京芝浦電気工場事件
争点
事案概要  使用者に該る者が多数存在する場合に、行為者として責任を負うのが誰かが争われ、賃金不払につき使用者(工場長等)が労基法二四条違反で起訴された事例。
参照法条 労働基準法24条2項
労働基準法121条1項
労働基準法10条
体系項目 賃金(刑事) / 賃金の支払い方法 / 定期日払い
罰則(刑事) / 両罰規定
労基法総則(刑事) / 使用者 / 労基法の使用者
裁判年月日 1950年12月19日
裁判所名 東京高
裁判形式 判決
事件番号 昭和25年 (ク) 2748 
裁判結果
出典 労経速報15号8頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労基法総則-使用者-労基法の使用者〕
 本件のように具体的事実関係において使用者に該当すると認められるものが多数存する場合において何人が当該行為者として責に任ずべきものであるかは具体的事実につきその何れが法益侵害行為者と認むべきかによつて決定さるべきものであつて……
 (中略)
 要するに原審のように単に被告人が経営担当者でなく且つ会社の命令伝達機関に過ぎないとの故を以て同被告人を右賃金不払の責任者に非ずとすることは理由不備であるとの譏を免れない。
 更に原判決は同被告人が本社より資金の送付がない以上自ら工場長として工場(即ち被告人会社)の責任において資金を調達するの権限はなく又個人としてこれらの資金を調達する責任もないから本社から資金の送付がない以上同人に賃金の支払を期待することは不可能であると判示しているが同被告人としては本社に対し更に一段強くその送付方を要求しこれを促進させ又これを確約させるも不可能ではなかつたかも知れないし又同被告人の検察官に対する供述調書中には「工場長として賃金の遅払を防止するため本社から予め資金繰りがつくという確認ができれば工場の手持資金又は銀行交渉等許される範囲で従来と雖もその防止につとめていた」との旨の記載があることに徴すれば本社からの送金なしとの理由のみにより同被告人に賃金支払の期待性なきものとして同人がその支払義務を尽さず漫然拱手傍観していることを許すべきではない。蓋し労働者は賃金その他これに準ずる収入によつて生活するものであつて賃金は労働者の生活の資でありその遅払又は不払は労働者にとつて正に死活の問題である。
 法が賃金は一定の期日に現金を以て支払うことを刑罰を以て使用者に要求しているのもまたこの趣旨に外ならない。しかるに判示のように工場長には資金調達の権限もなく又本社から資金の送付がないからとてその支払責任なしとすることは平素同人の指揮監督下に労働に従事している従業者の権利を保護する所以とはいえない。原判決の説示は被告人Y1が右賃金支払をなすべき行為義務者に該当せず又賃金支払は期待しえないが故に責任なしと判示する点において理由を尽さざるものであるとの非難を免れない。
〔賃金-賃金の支払い方法-定期日払い〕
〔罰則-両罰規定〕
 検察官副検事作成の被告人Y2の供述調書中第八、九項(本件記録五三二丁裏以下)記載の供述記載を綜合すると被告人Y3等被告人会社の職員が金融に奔走したことは之を認め得るがこれありとて直ちに本件賃金の遅払の防止に最善の処置をとつたとは輙く判定しがたい。賃金は前記の如く労働者の生活の資であつてその遅払或は不払は労働者にとつて正に死活問題であること、被告人Y3の原審公判における供述により明らかなように十月十六日から十一月九日までの間四回に亘り十月分の賃金は全額その支払を了した事実とを綜合するときは同被告人が労働基準法第百二十一條第二項にいわゆる違反の防止又はその是正に必要な処置を講じたとするがためには同被告人が単に金融に奔走したというに止まらず不要不急の資産の処分、売掛代金の回収その他賃金の不払を防止するため有効適切と認められるあらゆる手段を盡したか否かに関し尚一段の審理を遂げなければならない。
 原判決が判事のように資金調達に奔走した事実を以て直ちに右法條にいわゆる必要な措置を講じたものと認定したのはいさゝか審理不盡のそしりを免れない。