全 情 報

ID番号 10564
事件名 労働基準法違反被告事件
いわゆる事件名 労基法一九条違反被告事件
争点
事案概要  業務上負傷しその療養のため六年もの長期間休業している労働者を解雇したことが労基法一九条に違反するとして罰金刑に処せられた使用者が犯意がなかったとして控訴した事例。
参照法条 労働基準法19条1項
労働基準法119条1号
体系項目 解雇(刑事) / 法19条の解雇制限
裁判年月日 1990年5月17日
裁判所名 広島高
裁判形式 判決
事件番号 昭和63年 (う) 97 
裁判結果 棄却・(確定)
出典 タイムズ743号236頁
審級関係 一審/広島簡/昭63. 3.18/昭和61年(ろ)301号
評釈論文
判決理由 〔解雇-法19条の解雇制限〕
 業務上負傷し、その療養のために休業中の労働者を解雇することを制限した労働基準法一九条の法意は、右のような休業という事柄の性質上、使用者に対する関係で不利な立場ないし状態に立ち至った労働者につき、その労働力が回復されるまでの間、その労働契約上の地位を維持することによって労働者の生活の安定を確保することを期するものと解される。そして、このような法の趣旨からすると、負傷した労働者がそのためにする療養の要否、及びその療養のための休業の要否については、これが常に客観的、絶対的に正しいとされる医学的見地からしてその要否を実証され、根拠づけられることまでも要求されている訳ではなく、その負傷ないし療養の時点における通常一般的な医療水準に基づいて合理的に判断されれば足りるというべきである。〔中略〕
 更にまた所論は、被告人においては、本件解雇当時、既にAが休業加療する必要はなかったと認識していたと主張し、本件犯意を否認するかのようであるが、かかる療養及び休業の要否の判断基準については既に述べたとおりであり、その基準に照らしても、本件解雇当時、Aにおいてなおこの業務に起因する外傷性頭頚部症候群等の療養のために休業の必要があったと認めるべきところ、〔中略〕被告人においても、その当時、Aが引き続き医師の診察を受けながら休業を続けるとともに、右医師の診断に基づいて労災保険による休業補償請求手続をしていたことを認識していたこと及びそれにもかかわらずあえて右Aを解雇する挙に出たことが明らかであって、これらの事実からすれば、被告人につき本件犯意の存在を優に肯認し得るものというべきである。所論は採用できない。