全 情 報

ID番号 10593
事件名 労働安全衛生法違反被告事件
いわゆる事件名 阿川建設事件
争点
事案概要  労働安全衛生規則一五七条一項にいう事業主の危険防止措置義務につき、多額の費用を負担することとなる事情があっても、期待可能性がなかったとはいえないとされた事例。
参照法条 労働安全衛生法20条
労働安全衛生法119条1号
労働安全衛生法122条
労働安全衛生規則157条1項
体系項目 労働安全衛生法 / 危険健康障害防止 / 危険防止
労働安全衛生法 / 罰則 / 両罰規定
裁判年月日 1983年7月19日
裁判所名 仙台高
裁判形式 判決
事件番号 昭和56年 (う) 85 
裁判結果 棄却(確定)
出典 高刑速報58号345頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働安全衛生法-危険健康障害防止-危険防止〕
〔労働安全衛生法-罰則-両罰規定〕
 労働安全衛生法は、労働基準法と相まって労働災害の防止のための危害防止基準の確立、責任体制の明確化及び自主的活動の促進の措置を講ずる等その危害防止に関する総合的計画的な対策を推進することにより職場における労働者の安全と健康を確保するとともに、快適な作業環境の形成を促進することを目的としていること、及び労働安全衛生規則157条1項は、右労働安全衛生法の立法目的に従い、労働災害の防止のための基準を具体化し、責任体制をより明確にして、事業者に対し、車両系建設機械を用いて作業を行う場合において、車両系建設機械の転倒又は転落により労働者に危険が生ずるおそれのあるときは、その運行経路の路肩の崩壊を防止すること等必要な措置を講ずる義務を課しているのであることが法文上明らかである。右のように労働安全衛生法がその立法目的を宣言し、労働安全衛生規則157条1項が事業者に対し車両系建設機械の運行経路について右機械の転倒等による労働者の危険を防止するための必要な措置を講ずべき義務を課しているゆえんを考えると、車両系建設機械が動力で車輪や無限軌道を動かして自分で自由に動きまわることができるうえ、建設機械であることからともすれば付近に高低差や軟弱な地盤があるところでも運転操作されることが多く、そのため労働者に対し車両系建設機械の衝突、転落、接触等によって死傷等の危害を与える可能性をはらんでいるので、そのような労働災害から労働者をできるだけ保護するため、危害発生の可能性のある場所で車両系建設機械を用いて作業を行う場合につき、危害防止のために必要かつ適切な措置を講ずべき義務を事業者に課することとしたにほかならないというべきである。そして右作業に従事する労働者の熟練度、注意力に大差があり、かつ同じ労働者であってもその時の疲労等によってその注意力に格段の差のあり得ることをも考慮すると、右157条1項で事業者に課せられた危険防止措置義務は、その危険の発生が労働者の注意力の偏倚、疲労、その他の原因による精神的弛緩等による場合をも含め、労働者が車両系建設機械を用いて作業を行う場合にその運行経路の路肩が崩壊して危害を蒙る危険(抽象的危険)の存する限り、その危険の存する時間の長短、危険防止措置を講ずるための費用の多少、建設工事発注者が危険防止措置を講ずべきことを事業者に対し求めているか否かまた右措置を講ずべき費用を計上しているか否かを問わず、車両系建設機械の運行経路の路肩が崩壊することを防止する措置を講ずべきことを求めたものであると解するのが相当である。
 そうすると所論が前記(1)ないし(5)で掲げる諸事情は、被告会社に対し本件運行経路の路肩崩壊防止措置を講ずべき期待可能性がなかったとすべき事由とはならないというべきである。