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ID番号 10598
事件名 労働安全衛生法違反被告事件
いわゆる事件名 労働安全衛生法違反被告事件
争点
事案概要  被告人株式会社Y1は、コンベア等の製作、備付け等の事業を営むものであり、被告人Y2は同社の取締役であるが、同社が株式会社Dから請け負った精米工場の設備増設工事の現場責任者として、同工事の施工及び安全管理全般を統括していた者であるが、Y2は、Y1会社の業務に関し、平成一一年八月二九日、当該工事現場において有限会社Bから労働者派遣契約により派遣された労働者Cらを使用して作業を行うに際して、同工場機械室内に設置された高さ約九・一メートルの機械点検用通路に、幅約八五センチメートル、長さ約四一センチメートルの開口部を生じさせたものであり、同所を労働者が通行する際に、墜落する危険を及ぼすおそれがあったにもかかわらず、上記開口部を網状鋼板などで塞ぐなどの措置をとらなかったとして、労働安全衛生法違反で起訴され、有罪とされた事例。
参照法条 労働安全衛生規則540条1項
労働安全衛生法23条
体系項目 労働安全衛生法 / 危険健康障害防止 / 危険防止
労働安全衛生法 / 安全衛生管理体制 / 事業者
裁判年月日 2001年4月13日
裁判所名 千葉簡
裁判形式 判決
事件番号 平成12年 (ろ) 27 
平成12年 (ろ) 28 
裁判結果 有罪(罰金)(控訴)
出典 労働判例835号86頁
審級関係 控訴審/10599/東京高/平14. 3.22/平成13年(う)1205号
評釈論文
判決理由 〔労働安全衛生法-危険健康障害防止-危険防止〕
 被告人会社は、本体等工事の下請負人として自己の責任において右工事を施工していた事業者であるから、法20条から25条までの労働者の危険を防止すべき措置を講ずる義務を負っていたというべきであり、また、弁護人提出の報告書(一)の作業指示書(資料8-1~31)等関係証拠によれば、被告人Y2は、被告人会社から本体等工事の現場責任者に任じられ、後記のとおり派遣元の有限会社Aの労働者を指揮して本体等工事を施工し、工程管理、施工管理、安全管理を担当していたものであって、本体等工事の施工に関する限り、Bの単なる補助者であったとは到底認められない。〔中略〕
〔労働安全衛生法-危険健康障害防止-危険防止〕
 Aは、前記「基準」の一部を除き、殆どの項目において、本体等工事の直接実行性、自己遂行性に欠け、被告人会社または被告人Y2において、それらを実行していたといわざるを得ないから、Aは、被告人会社との間で請負契約が成立していたとは到底認められず、労働者派遣契約を結び、被告人会社に対し労働者を派遣していたと認めるほかはない。
 そうすると、被告人会社においては、Aから派遣されていたCら作業員とは使用関係がなく、労働者でないため、法2条3号にいう事業者に該当しないとしても、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備に関する法律(以下、派遣法という。)45条3項により、派遣先の被告人会社を法2条3号の事業者とみなし、Aから派遣された労働者を同法上の労働者とみなすことができるから、被告人会社は本体等工事の施工において、法23条、27条、規則540条の適用を受けるべき関係にあったというべきである。
 弁護人は、数次下請関係の下で、被告人会社が末端のAに施主、元方請負人の意向に基づき作業日、作業時間、作業内容、作業要員数に関する指示を発するのは当然のことであり、これが被告人Y2からAの代表者または棒心(現場責任者)に伝達されていたに過ぎないというが、被告人Y2のAの労働者に対する関係は、下請、孫請の関係における指示、指導、調節等とは認められず、派遣労働者に対する業務上の指揮命令と見るべきものであり、更に、Aの業務遂行性や法的責任性の欠如等からして、Aを施工主体と認めることは到底できない。〔中略〕
〔労働安全衛生法-安全衛生管理体制-事業者〕
 被告人会社は、本体等工事中、本件工場内で既存の通路に改変を加えた事業者(施工業者)として、規則540条により、配下の派遣労働者やその他工事及び本件工場関係者らが使用するための通路を有効に保持すべき措置義務を負っていたところ、被告人Y2は、本体等工事に関し被告人会社の現場責任者として常駐し、本件開口部の危険性を承知している者として、法122条により、右規則違反に該当する行為をしてはならない義務を負っていながら、本件開口部を放置して右義務に違反したものであるから、被告人会社は、被告人Y2の行為により、右措置義務違反の責めを免れないというべきである。〔中略〕
〔労働安全衛生法-危険健康障害防止-危険防止〕
 本件開口部を含む本件通路は、Aから継続的に来ていた一部労働者だけでなく、臨時的派遣者や電気工事関係者等のように不慣れな労働者の使用にも供されていたものであり、特に、事故当日は、増設機器の試運転のため、電気工事関係者が本件通路を通行することが予定されていたのであるから、被告人Y2は、現場責任者として、本件開口部の如き高所に危険状態を作出してはならない義務があったにもかかわらず、元請業者や電気工事関係者等にも一切連絡せず、ただ、出入り禁止ないし注意喚起の措置をとっただけで、本件開口部を跨ぐようなものはないと安易に考え、別の作業後に網目状鋼板を張ることにしたため、電気工事関係者の転落死事故を招いたものであり、その義務違反の程度は重いというべきである。