全 情 報

ID番号 10599
事件名 労働安全衛生法違反被告控訴事件
いわゆる事件名 労働安全衛生法違反被告事件
争点
事案概要  被告人株式会社Y1は、コンベア等の製作、備付け等の事業を営むものであり、被告人Y2は同社の取締役であるが、同社が株式会社Gから請け負った精米工場の設備増設工事の現場責任者として、同工事の施工及び安全管理全般を統括していた者であるが、Y2は、Y1会社の業務に関し、平成一一年八月二九日、当該工事現場において有限会社Bから労働者派遣契約により派遣された労働者Hらを使用して作業を行うに際して、同工場機械室内に設置された高さ約九・一メートルの機械点検用通路に、幅約八五センチメートル、長さ約四一センチメートルの開口部を生じさせたものであり、同所を労働者が通行する際に、墜落する危険を及ぼすおそれがあったにもかかわらず、上記開口部を網状鋼板などで塞ぐなどの措置をとらなかったとして、労働安全衛生法違反で起訴され、有罪とされたケースの控訴審で、本件開口部は通路ではないとして、原審を破棄し被告人が無罪とされた事例。
参照法条 労働安全衛生規則540条1項
労働安全衛生法23条
労働安全衛生法122条
体系項目 労働安全衛生法 / 危険健康障害防止 / 危険防止
労働安全衛生法 / 安全衛生管理体制 / 事業者
裁判年月日 2002年3月22日
裁判所名 東京高
裁判形式 判決
事件番号 平成13年 (う) 1205 
裁判結果 無罪(原判決破棄)(確定)
出典 タイムズ1111号187頁/労働判例835号80頁
審級関係 一審/10598/千葉簡/平13. 4.13/平成12年(ろ)27号
評釈論文 小畑史子・労働基準55巻2号18~22頁2003年2月
判決理由 〔労働安全衛生法-安全衛生管理体制-事業者〕
 被告人会社と有限会社Bの関係をみると、関係証拠によれば、原判決が詳細に説示するとおり、被告人会社においてBの労働者に工事内容を指示し、その工事に必要な材料を調えるなどしていて、本件工事に関し、Bは、前記告示2条各号のほとんどに該当しないから、労働者派遣契約に基づき、Bが被告人会社に対し労働者を派遣していたと認められる。そうすると、結局、被告人会社は、Bから派遣されていたAら労働者を使用する事業者とみなされることになる。〔中略〕
〔労働安全衛生法-危険健康障害防止-危険防止〕
 労働安全衛生法は、23条において「事業者は、労働者を就業させる建設物その他の作業場について、通路(中略)の保全(中略)のため必要な措置を講じなければならない。」とし、その違反に対し罰則を設けている(119条1号、122条)が、通路に関する定義規定を置いていない。そこで、通路の意義を検討すると、労働安全衛生法は、そもそも、労働者の安全と健康を確保することなどを目的とするものであり(1条)、同規則において、540条1項で「事業者は、作業場に通ずる場所及び作業場内には、労働者が使用するための安全な通路を設け、かつ、これを常時有効に保持しなければならない。」と規定した上で、通路であることの表示(540条2項)、通路の照明(541条)、屋内に設ける通路の幅、通路面の状態(542条)、機械間の通路の幅(543条)等、通路の安全を確保するための基準を示していることにかんがみれば、通路とは労働者が通行する場所をいうと解するのが相当である。
 もっとも、旧労働省の解釈例規では、「通路とは、当該場所において作業をなす労働者以外の労働者も通行する場所をいうこと。」(昭和23年基発第736号)とされている。しかし、厚生労働省労働基準局安全衛生部計画課課長補佐Cの当審証言によれば、「当該場所において作業をなす労働者」であるかどうかは、各時点において当該場所で作業を行っているかどうかによって判断するというのであり、当該場所で労働者が作業中で、それ以外の労働者が通行しなければ、通路には当たらないことになるから、当裁判所の見解と旧労働省の見解とは実質的に異なるところはない。
 これを本件についてみると、被告人Y2とAら3名は、前記のとおり、網状鋼板を取り付けるため、足場板を取り外して本件開口部を生じさせたが、この時点では、本件開口部は被告人会社の労働者が作業をなす場所であって、ここで作業中の労働者以外に、工場内で働く被告人会社の労働者はそもそもいないから、本件開口部は通路に当たらない。その直後、忘れていたコーキング作業を思い出し、麻ロープを張った上で、それぞれその場を離れ、コーキング作業が終わり次第、その場に戻って網状鋼板を取り付けることにしたわけであるが、この時点では、本件開口部は被告人会社の労働者が作業をなす場所ではなくなったとはいえ、前記のとおり、工場内で働く被告人会社の労働者は、被告人Y2を除けばAら3名だけであるから、それ以外の被告人会社の労働者が本件開口部を通行することはあり得ず、Aら3名がコーキング作業中に戻ってきて本件開口部を通行することも考え難いから、本件開口部は通路に当たらないというべきである。そして、コーキング作業終了後にAら3名が本件開口部に戻ってくれば、網状鋼板を取り付けることになるから、その時点ではAら被告人会社の労働者全員の作業する場所となり、それ以外の労働者が通行することもあり得ず、通路になるわけではない。実際には、本件開口部を農協連職員のDやE電からの依頼を受けたFが通行し、あるいは通行しようとしたが、これらの者は被告人会社の労働者ではないから、これらの者が通行することがあるとしても、被告人会社の労働者にとっての通路になるわけではない。
 以上の次第であるから、本件開口部は通路ではないというべきであり、これを通路であるとした原判決には法令適用の誤りがあり、その誤りは判決に影響を及ぼすというべきである。論旨は理由がある。