全 情 報

ID番号 90006
事件名 賃金等請求事件
いわゆる事件名 HSBCサービシーズ・ジャパン・リミテッド(賃金等請求)事件
争点 管理監督者に当たるか、年俸額に割増賃金が含まれているか、実際の労働時間の算定方法、附加金の支払い等が争われたもの。
事案概要 (1) 平成19年12月17日、外国法人Yに期間の定めのない正社員として年俸1,250万円で雇用されたXは、入社と同時に、香港上海銀行東京支店に出向を命じられ、経営上の重要度が高い新規プロジェクトの代表代行として勤務していたが、3か月の試用期間中の翌年3月7日に、本採用を拒否されたことから、その間の未払残業代と付加金の支払いのほか企業型確定拠出年金積立金の返還するよう、22年6月に至り提訴した。なお、代表代行は、就業規則上は管理監督者として時間外・休日勤務手当が支給されないグレードに位置付けられていた。
(2) 東京地裁は、ⅰ)Xは労働時間を管理されず、報酬が相当に高額であったが、その業務上の裁量権は、六部門中の一部門のうちの限定された業務に関して有していたにすぎず、部下もなく労務管理上の裁量権は皆無であったことから管理監督者に当たるとはいえない、ⅱ)労働契約書の中に、割増賃金が年俸に含まれるとする条項があったとしても、年棒のうち割増賃金に当たる部分とそれ以外の部分とが明確に区分されていないことから、かかる条項は労基法に反し無効であり、未払割増賃金と遅延損害金の支払いを命じた。なお、附加金は除籍期間徒過、積立金はXへの返還義務がないとして棄却した。  
参照法条 労働契約法
労働基準法37条
労働基準法41条
労働基準法114条
体系項目 労働時間 (民事)/労働時間・休憩・休日の適用除外/管理監督者
賃金(民事)/割増賃金 /割増賃金の算定方法
裁判年月日 2011年12月27日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成22年(ワ)24588号 
裁判結果 一部容認、一部棄却(控訴)
出典 労働判例1044号5頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働時間 (民事)/労働時間・休憩・休日の適用除外/管理監督者〕
〔賃金(民事)/割増賃金 /割増賃金の算定方法〕
1 管理監督者性について
(3) Xは、(中略)インターネットバンキングの立上げに係るプロジェクト管理について相応の裁量権を有する業務を担当する地位にあったが(中略)、Yの個人金融サービス本部の中に六つ存在する部門の一つにすぎないマルチチャネル部門の、更にその中でもインターネットバンキングサービスという限定された業務に関する裁量権にすぎず、同VPが、一定の部門を統括する職務を行っていたとは認められない上、Xは、上記マルチチャネル部門において最下層に位置する職員であって、部下に当たる職員はいなかったのであるから、部下に対する労務管理上の決定等についての裁量権は皆無であったと認められる。
 そうすると、Xは、管理監督者にふさわしい職務内容や権限を有していなかったというほかはないから、(中略)Xが労働時間管理を受けていなかったこと、Xの報酬が相当に高額であったことを考慮したとしても、Xが、労基法41条2号に規定する管理監督者に当たると認めることは困難であると言わざるを得ない。
2 時間外・深夜・休日割増賃金を含むとする労働契約の有効性について
(1) XとYとの契約書(中略)は、「報酬」の項で「年間の俸給は1250万円とし、毎月その12分の1が支払われるものとします。(中略)年間の俸給は、残業や休日出勤に対するあらゆる賃金を含みます。」と規定されている(中略)が、年俸のうち割増賃金に当たる部分とそれ以外の部分とを明確に区分することができる場合に限り、その有効性を認めることができると解されるところ(最判昭和63年7月14日・労判523号6頁参照)、そのような明確な区分がされているものとは認められないから、法定時間外労働等に対する割増賃金について、これを年俸に含むとする旨の合意は、労基法37条に反し無効であると言わざるを得ない。
8 結論
 以上によれば、XのYに対する請求は、平成19年12月分~平成20年3月分の未払割増賃金合計324万6922円及び各支払期日の翌日(平成19年12月分については支払期日よりも後の日)から支払済みまで商事法定利率である年6パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから、いずれも棄却することとして、主文のとおり判決する。