全 情 報

ID番号 90013
事件名 解雇無効確認等請求事件
いわゆる事件名 いずみ福祉会事件
争点 配転と解雇の効力、解雇期間中に得た中間利益分の控除の可否と程度が争われた事案
事案概要 (1) 社会福祉法人Yに入社以来20年以上保育業務に従事していた保母Xは、平成10年10月に清掃美化整備業務に配置転換され、同11年2月には保育業務で支払われていた特殊業務手当等が打ち切られ、同年3月にはさらに本俸と期末手当を減額され、翌11年4月には用務員に配置転換され、同年5月18日、勤務態度不良等を理由に解雇された。このため、Xは、配転と解雇は権利の濫用にあたり無効として、配転・解雇期間中の得べかりし賃金等の支払いを求めて提訴した。
(2) 熊本地裁八代支部は、解雇・配転はともに権利の濫用に当たり無効とし、ⅰ)YはXに配転・解雇期間中に保育業務に従事していたならば得られたであろう賃金を支払うこと、ⅱ) XはYに、解雇期間中に他の職に就いて得た中間利益を償還すべきこと、ⅲ)償還すべき額は平均賃金の4割を上限とすることとした。福岡高裁は、双方の控訴を棄却したところ、最高裁は、中間利益額の控除に関し、平均賃金の4割を超えて控除できないものの、中間利益額が平均賃金額の4割を超え、その中に平均賃金算定の基礎に算入されない賃金がある場合には、その全額を控除できるとして控除額を算定し直し、破棄自判した。  
参照法条 民法536条
労働契約法
体系項目
裁判年月日 2006年3月28日
裁判所名 最高三小
裁判形式 判決
事件番号 平成15年(受)1099号 
裁判結果 破棄自判(確定)
出典 最高裁判所裁判集民事219号1033頁
裁判所時報1409号1頁
判例時報1950号167頁
判例タイムズ1227号150頁
労働判例933号12頁
審級関係 控訴審 福岡高裁/H15.3.26/平成14年(ネ)372号/平成14年(ネ)988号
第一審 熊本地裁/H14.3.5/平成12年(ワ)80号
評釈論文 佐藤敬二・民商法雑誌135巻3号121~125頁2006年12月
野川忍・ジュリスト1329号119~123頁2007年3月1日
柴田洋二郎・日本労働法学会誌109号131~138頁2007年5月
野川忍・平成18年度重要判例解説〔ジュリスト臨時増刊1332〕217~219頁2007年4月
判決理由 〔賃金/賃金請求権の発生/バックペイと中間収入の控除〕
 3 原審は、上記事実関係等の下において次のとおり判断し、本件期間に係る賃金等の請求について、その一部を認容すべきものとした。
 (1) 本件各配転命令及び本件解雇は、いずれも無効である。したがって、Yは、Xに対し、Xが保母として保育業務に従事したことを前提として賃金を支払うべきである。もっとも、Xは、民法536条2項ただし書に従い、本件期間に他で就労して得た利益をYに償還しなければならず、賃金請求は、この償還しなければならない金額を控除した金額の限度で認容すべきこととなる。
 (2) そして、他で就労していた期間に係る賃金に関しては、労働基準法26条を類推適用し、そこから上記利益の額を同賃金の額の4割の限度で控除した後の金額が支払われるべきであるから、本件期間に係る賃金としてYの支払うべき金額は、次のとおりとなる。(中略)
 4 しかしながら、原審の上記3(2)及び(3)の判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
 (1) 使用者の責めに帰すべき事由によって解雇された労働者が解雇期間中に他の職に就いて利益(以下「中間利益」という。)を得たときは、使用者は、当該労働者に解雇期間中の賃金を支払うに当たり中間利益の額を賃金額から控除することができるが、上記賃金額のうち労働基準法12条1項所定の平均賃金の6割に達するまでの部分については利益控除の対象とすることが禁止されているものと解するのが相当である。したがって、使用者が労働者に対して負う解雇期間中の賃金支払債務の額のうち平均賃金額の6割を超える部分から当該賃金の支給対象期間と時期的に対応する期間内に得た中間利益の額を控除することは許されるものと解すべきであり、上記中間利益の額が平均賃金額の4割を超える場合には、更に平均賃金算定の基礎に算入されない賃金(同条4項所定の賃金)の全額を対象として利益額を控除することが許されるものと解される(最高裁昭和36年(オ)第190号同37年7月20日第二小法廷判決・民集16巻8号1656頁、最高裁昭和59年(オ)第84号同62年4月2日第一小法廷判決・裁判集民事150号527頁参照)。(中略)