全 情 報

ID番号 00035
事件名 仮処分申請事件
いわゆる事件名 浅田化学工業事件
争点
事案概要  レッドパージによる解雇に対する仮処分申請がなされ、国内法との関係、解雇六年後の訴訟提起が信義則違反ないし訴権の濫用になるか否かが争われた事例。
参照法条 労働基準法3条
民法1条2項
体系項目 労基法の基本原則(民事) / 均等待遇 / 信条と均等待遇(レッドパージなど)
解雇(民事) / 解雇の承認・失効
裁判年月日 1964年6月30日
裁判所名 大阪高
裁判形式 判決
事件番号 昭和36年 (ネ) 759 
裁判結果
出典 労働民例集15巻3号742頁
審級関係 一審/04832/神戸地姫路支/昭36. 5. 2/昭和32年(ワ)159号
評釈論文
判決理由  〔労基法の基本原則―均等待遇―信条と均等待遇(レッドパージなど)〕
 ところで国内法秩序においては特定の労働者が共産党員であるとかその同調者であるとかを理由として使用者がこれに対し雇傭の告知権を行使するならば、それは憲法第一四、一九及び二一条、民法第一条及び第九〇条、労働基準法第三条等の規定に反するものとして無効であって、告知にも拘らず雇傭に付何等の消長を及ぼすことなく、従前の労働関係は存続するといわなければならない。最高司令官の要求が一定の就労従業員を当該企業から排除することを目的とするものである場合に、右要求実施のため使用者のなした当該労働者に対する告知が憲法及び前記国内法の規定に違反することを理由として当該雇傭に基く労働関係消滅の効果を発生せしめ得ないとすれば、右告知に関し憲法その他右国内法の諸規定は、降伏条項実施のため適当と認められる措置に関し最高司令官に専属する認定権限の実効性を奪い、最高司令官の認定したところを強制実現し得べき占領権力を無力化するものといわなければならない。降伏条項の実施に関し日本の国家権力が最高司令官の権限の下に従属せしめられるものである以上、憲法以下右国内法の諸規定は、最高司令官の権限や占領権力と矛盾牴触する限りにおいてはその妥当力を有しないものと解しなければならない。しかしまた告知の当事者相互間に存在するのはどこまでも日本国内法に基く法律関係に外ならないこと前記のとおりであるとすれば、憲法その他国内法諸規定が妥当力を有しないということは、当然その反射として、通常前記理由が一般に惹起すべき消極的効果を右告知に対しては及ぼさない結果となるものと解せられる。一面また国内法のみの妥当する法律関係であるが故に、その国内法自体の効力が前記場合の如くに否定排斥せられることのない範囲においては、具体的場合の解雇の効力の存否は国内法に対する適否に照らして判定せられるべきことになることはいうまでもない。
 〔解雇―解雇の承認・失効〕
 本件訴が提起されたのが昭和三二年七月三〇日であって、控訴人等が本訴請求の内容としてその無効の確定を求める被控訴人の控訴人等に対する解雇の意思表示の時から既に六年有余の経過していることは記録上明かであるけれども、民事訴訟による私権保護請求権ももとより憲法第三二条にいうところの裁判を受ける権利に外ならず憲法第一一条によって日本国民たるものに与えられた不可侵の永久的権利として保障されたものであるから、国民各自の人格と共に終始すべく、一般の財産権における消滅時効の制度等の如く単なる事実的状態の永続を原因として消滅するが如き結果はこれを認めることはできない。次に控訴人両名が右解雇当時既に退職金等の受領をすることによって右解雇の効力を争わない旨黙示の意志表示をしたこと並びに右解雇の意思表示以後本訴提起に至るまでの七年に近い年月の経過によって、被控訴人及び控訴人等がかって所属していた労働組合においては既に控訴人等を加えないで新たな従業員の配置による職場組織や生産活動の秩序又は組合の組織が形成せられ、右解雇当時の労使関係、就労態勢その他一切の客観状況に完全な変化が生じていること等被控訴人主張の理由は、その存否により控訴人等の本訴請求の実質上の当否の判断に影響することはあり得るとしても、その請求を内容とする本訴の提起行為自体の違法を招来するものではないと解すべきことは、右主張にかかる事実自体のもつ意味と前記憲法の条規の精神を比較考察して明かであるし、また前記のような企業及び労働組合の各組織内における被控訴人主張の変動安定は、解雇の意思表示から本訴提起までの六年有余の日子の経過に伴い社会生活上通常生ずべき必然の変化の域を出るものでないと認められるところ、単なる不行使の状態の永続によっては訴権それ自体が消滅するものでないことは前記のとおりであるし、客観的意味における時間の経過として観察した場合、一般債権についての消滅時効期間にも達しない七年未満の経過は特に長期とは認められないし、被控訴人会社をめぐる社会関係の変動も特に異常という程のものでなく、しかも控訴人等の責に帰すべき事由が右変動を惹起助長したわけでないことは被控訴人の右主張自体によって自ら明らかであって、以上の事実に照らせば本件訴における訴権の行使をもって、控訴人等の被控訴人に対する著しい不信行為を敢てするものとか訴権を濫用するものとは到底いうことを得ない。