ID番号 | : | 00045 |
事件名 | : | 差別賃金仮払仮処分申請事件 |
いわゆる事件名 | : | 富士電機製造事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 中央研究所配属の従業員が、思想・信条により、同期の者と比べて昇格、昇給、賞与ならびに昇給の査定において差別的取扱いを受けたとして、右差別取扱による賃金差別の差額の支払を請求した事例。(申請認容) |
参照法条 | : | 労働基準法3条 |
体系項目 | : | 労基法の基本原則(民事) / 均等待遇 / 信条と均等待遇(レッドパージなど) |
裁判年月日 | : | 1974年11月26日 |
裁判所名 | : | 横浜地横須賀支 |
裁判形式 | : | 決定 |
事件番号 | : | 昭和49年 (ヨ) 38 |
裁判結果 | : | 認容 |
出典 | : | 時報767号105頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | 吉川基道・月刊労働問題211号138頁/高荒敏明・労働法律旬報873号28頁/西井龍生・判例評論196号35頁 |
判決理由 | : | 債権者が同期生の標準よりも低い査定を受け始めたのは前記のとおり昭和四五年一二月の賞与及び同四六年度の昇給からであるから、時期的には同四五年三月二一日以降の債権者の職務処理能力、勤務状態等に評価を低からしめる事情が発生し、以後引き続きそのような事情が解消せず却って評価を更に低くする事情があったものと考えざるをえない。 しかし、債権者には昭和四五年三月以降、同四六年三月までの中央研究所勤務中に、それまでの債権者に対する評価をことさら低下させ、又は標準より低からしめるような具体的かつ合理的な事情は見当らないし、同年四月以降の国立A大学工学部電気工学教室B研究室へ出張した期間におけるその研究態度および成績は良好で標準よりも格別低い評価を受けるべきものとは認められず、更に国立A大学から中央研究所へ戻った同四八年九月以後も標準よりも低い査定を受けるような合理的事情は窺えない。 ところで、昭和四五年九月のある日、債権者が中央研究所へ出社した際社内で所携の手帳一冊を落とし、これを拾った社員の手からこの手帳は総務課へ届けられ、同課より債権者の手許へ同日午前一一時ころ返還されるということがあり、これ以後社内の一部で債権者が共産党員ではないかとうわさされるようになった。そして右手帳事件は債権者に対する査定が低下し始めた賞与の査定調査期間中あるいはその直後で、かつ、昇給の査定調査期間中のできごとである。なお、債権者の大阪出張はこの事件から三カ月ほど後である同年一二月に会社側から債権者に対し内示されたものである。 債務者会社は前記手帳事件を契機に、これ以後債権者を共産党員とみなし、これを理由として債権者を嫌悪し、昭和四五年一二月以降、賞与、昇給、昇格、進級につき、同期の者の標準的取扱に比し徐々に低い査定をする方法で差別的取扱いをしてきたということができる。 5 債務者会社の全従業員をもって組織されているC労働組合と債務者会社との間で締結されている労働協約によると、「会社は所定の手続にしたがって昇格を行なう」(一七条)、「同一労働には同一賃金を支払う」(六三条二項)との定めがあって、資格、等級制度の運営は前述のごとき基準に従ってなされており、又両者の間では毎年賃金協定が結ばれ、給与の支給基準につき平均査定額と最低査定額とが決められていて、実際にも債務者会社は組合との協定に基づきその枠内で査定を行っていて、賃金の支給基準(特に基本給)と資格、等級制度とは深い関連がある。 このような事実関係及び制度の実際の運用状況からすると、債務者会社にあっては、標準的(これを平均的といいかえてもよい)な能力を有し、勤務成績や会社に対する貢献度も標準的な従業員については、資格、等級、給与につき標準的な取扱いを受ける期待的利益(期待権)を有していると考えられる。 そうして、債権者には先に述べたように勤務能力、成績等に標準を下まわるような格別な事情は存しないから、標準的な取扱いを受けるべきであり、そのような期待的利益を有しているのにも拘らず、前述のとおり思想、政党加入を理由とする差別的取扱いを受けてきたもので、これは労働基準法三条、民法九〇条に違反する違法な行為であるから、債権者は右期待的利益を違法に侵害されたことになる。 6 債権者と標準者とのそれぞれにつき支払われた昭和四五年一二月以降同四八年一二月までの賞与額及び同四六年六月から同四九年三月までの賞与を除く給与額並びにその差額は別表(三)のとおりであり、従って債権者は債務者会社の不法行為により右差額と同額の金六三万九、四一七円の損害を被ったことになる。 |