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ID番号 00046
事件名 解雇無効確認等請求事件
いわゆる事件名 日本国有鉄道事件
争点
事案概要  国鉄に雇用されていたが、レッドパージにより共産党支持者であるとして解雇された者および行政機関定員法に基づき剰員として解雇された者が、八年を経過した後、解雇の無効確認の訴を提起した事例。(一審 請求棄却、二審 控訴棄却、請求棄却)
参照法条 日本国憲法25条,28条
行政機関の職員の定員に関する法律附則9項
民法1条2項
体系項目 労基法の基本原則(民事) / 均等待遇 / 信条と均等待遇(レッドパージなど)
解雇(民事) / 解雇事由
解雇(民事) / 解雇の承認・失効
裁判年月日 1978年6月6日
裁判所名 東京高
裁判形式 判決
事件番号 昭和49年 (ネ) 1988 
裁判結果 棄却
出典 時報900号108頁/タイムズ370号139頁/労働判例301号32頁
審級関係 一審/長野地伊那支/昭49. 7.22/昭和34年(ワ)28号
評釈論文 萩沢清彦・判例タイムズ374号46頁
判決理由  〔労基法の基本原則―均等待遇―信条と均等待遇(レッドパージなど)〕
 (1) 控訴人X1は、上記連合国最高司令官の指示は、言論、思想の自由を定めたポツダム宣言一〇項に反すること、極東委員会の決定に基づかず、これに基づくとしても、同委員会の対日基本政策第三部第三項の信条を理由とする差別を廃止するとの定めに反することなどを挙げて無効である旨主張する。しかしながら、連合国最高司令官の上記指示に控訴人X1の指摘するような規範違反が存するとしても、それは当時における占領各国の内部において問題となりうるにとどまり、被占領国である当時のわが国の政府機関及び国民にとっては、連合国最高司令官の指示は最高の法規範としての権威と拘束力を有し、その効力を問疑する余地はなかったのであるから(最高裁昭和三五年四月一八日大法廷決定民集一四巻六号九〇五頁参照)、控訴人X1の右主張は本件においては問題となりえない。
 (2)控訴人X1は、連合国最高司令官の指示は日本国民に対し法的規範を設定したものではないと主張する。しかし、この主張も独自の見解であって採用することができない。
 (3)控訴人X1は、連合国最高司令官といえども憲法の拘束を受けるものであるところ、上記指示は憲法一四条、一九条に違反しているから無効であると主張する。しかし右は前記(1)で述べたところと異なる前提に立つ立論であって、その前提において失当であるから採用できない。
 〔解雇―解雇事由〕
 (一)控訴人X2は、定員法附則九項は、団体交渉権を否定して勤労者の労働基本権を全く剥奪し、ひいては生存権を否定するものであり、その代償措置である苦情処理申立制度の適用もないから、同法附則七項、八項は右九項と相俟ち憲法二八条、二五条に違反するものであり、無効であると主張する。
 しかし、国鉄の財政は国家の出資にその基礎を置き、その運営上国家財政と密接な関連性をもち、定員法が国家財政の合理化のために国家公務員とならんで国鉄職員についての人員削減措置を講じたのも主としてこのためであって、その限りにおいては両者を同一視することに十分の合理性が認められるから、定員法附則七項ないし九項の規定により国鉄職員が国家公務員と同様団体交渉権の制限を受けることになったとしても、これにより右規定が憲法二八条、ひいては二五条に違反し、無効であるとすることはできない(前記最高裁昭和二九年九月一五日大法廷判決参照)。また、右附則九項は免職につき当時の公労法一九条の苦情申立共同調整処理会議への苦情申立を許さないこととしているが、免職処分につき行政上の不服手段を認めるかどうかは立法政策上の問題であって、これを認めなかったからといって、別に裁判所に直接出訴してその処分の違法を争う途が閉されていない以上、これをもって憲法二八条、二五条に違反するものとすることはできない。よって、この点の控訴人X2の主張は失当である。
 (中 略)
 (3)前記認定事実によると、控訴人X2はその職場において勤務時間中に共産党員として上に認定したような政治活動を行ったものであるから、その結果同控訴人が、全力をあげて職務の遂行に専念すべき義務(国鉄法三二条)に違反すること著しく、正常な業務の運営を阻害したものであり、また、上司との間に円滑を欠き業務に対する協力の程度が低いと評価されたことも、決して不当、不合理な認定、判断であるということはできない(それは、単に控訴人X2が共産党員であるということだけで、専らその思想的側面に着目してなされた評価ではなく、党員として行った現実の政治活動が国鉄職員としての職務上の行動態度に影響し、反映する側面において評価され、その結果他の者より職員としての資格要件が劣るというのにすぎないのである。)。そしてさらに、控訴人X2は勤務年限においても他の者より短く、この点においても整理準則上整理対象とされる要因を具備していたのであるから、被控訴人が右両者の理由により控訴人X2がその整理準則の整理基準に該当すると認定し、定員法により免職したのは合理性を欠くものとはいえず、そこに控訴人主張のような裁量権の濫用があったとすることはできない。
 右のとおりであって、この点についての控訴人X2の主張は失当である。
 〔解雇―解雇の承認・失効〕
 1 控訴人らが被控訴人主張のように(但し、その受領の日時、方法及び受領の趣旨の点を除く。)退職手当金及び共済組合法による一時退職金(以下両者を合せて「退職金」という。)を受領したことは当事者間に争いがなく、《証拠略》を総合すると、控訴人らがそれぞれ被控訴人から、被控訴人主張の日時にその主張の方法で退職金を受領したことが認められる。しかし、右退職金受領の趣旨については、被控訴人主張のように単に退職金は本来解雇による退職を前提としてはじめて給付され、また、これを請求しうる性質のものであることや、右退職金給付請求書に控訴人らの手によりかかる退職金として給付を申請する旨の記載がなされているとの事実から、直ちに控訴人らにおいて退職を承認し、その効果を争わない旨の意思を表示したものと判定することはできない。すなわち、被控訴人は、控訴人らにおいて右免職を争い、退職金の受領を拒否したところから右退職金を供託したものであるところ―《証拠略》を総合すると、控訴人らは、右のように免職の効力を強く争っていたが、当時所属労働組合はこれに対する支援を行わないとの態度をとったため、頼みとする組合からの経済的、精神的援助が受けられず、また、当時の経済的混乱により一般に労働者の生活が窮迫していた状況下において他に定職に就くことができず、生計の維持にも困難する事情に置かれ、他方解雇に伴う手続の形式的完結を急ぐ旧職場の上司の勧告もあって、やむをえず退職金の受領手続をとったものであることが認められ、右の認定の事実及び後記認定のような本件解雇にからまる諸事情に照らせば、当時被控訴人においても控訴人らによる右退職金の受領がいかなる事情の下で、いかなる動機、理由によってなされたものであるかを推知していたか、または当然推知しえたものと推認するのが相当であり、これらの事実関係に即して考えると、上記退職金受領の一事をもって控訴人らが解雇の効力を争わない旨の意思を表示したものとすることはできないといわざるをえないのである。そして他にこれを認めしめるに足りる証拠はない。そうであるとすれば、控訴人らによる解雇承認を前提とする被控訴人の信義則違反の主張はその前提を欠くというべく、また解雇承認の有無を離れて単に退職金受領の事実のみをとらえても、上記のような事実関係の下における退職金受領の一事から、後日において解雇の効力を争うことが信義則に違反するものとすることはできない。
 2 被控訴人が控訴人らの免職後その有効であることを前提として後任人事を決定、配置し、その後長年にわたる時間的経過に伴ないその組織秩序が形成されていることは弁論の全趣旨からこれを認めることができるし、このようにして形成持続された事実状態及び法状態が一応尊重されるべき法価値を有するものであることは、被控訴人の主張するとおりである。しかし、かかる既成秩序の尊重は決して絶対的なものではなく、殊にそれが違法ないし無効な行為を前提として形成維持されたものである場合には、その法価値は更に低下せざるをえない。一般に企業が労働者を解雇した場合には、企業者は当然その者が有効に解雇されたものとしてその後の当該企業における労働者配置を行い、企業内秩序の形成をはかるであろうが、その後右秩序が一定期間持続しても、当初の解雇が無効とされればその秩序が一部覆えされることとなるのを免れず、被解雇者において右解雇の効力を争うのがその者の側の事情によってある程度おくれたとしても、単に既成秩序の尊重という点のみから当然に右解雇無効の主張を信義則違反とすることはできないのである。被控訴人は、労働組合法二七条二項の規定が不当労働行為に関して行為の時から一年を経過した後は救済申立を許さないこととしている趣旨に照らし、解雇後長期間を経過したのちはもはや労働者からする解雇無効の主張を許すべきでないと主張するが、このような特別の立法措置が講ぜられている場合は格別、そうでない場合にたやすく右規定を類推して解雇無効の主張に期間的制約を課することは相当ではない。要するに、労働者の訴による解雇無効の主張が信義則違反として許されないものであるかどうかは、単に解雇と右無効主張の間の経過期間が長期にわたるかどうかのみからは決められない問題であり、解雇当時の事情、その後の推移、その間における労使双方の態度、現在の状況、労働者の訴提起にいたった動機、理由、その他諸般の事情に基づき、健全な法意識に照らして右解雇無効の主張が著しく信義に反するものとなるかどうかによって決せられるべきものといわざるをえないのである(なお、被控訴人は控訴人らの免職後長期間の経過によって免職の基礎資料が廃棄され(保存期間の経過により)または散逸してその根拠の立証が困難となっていることを信義則違反の一事由として主張しているが、かかる事情は控訴人らについても同様に妥当するのみならず、右は要するに長期間の経過に伴う事実状態及び法状態の安定という法価値の一要素をなすものにすぎず、特にこれをとりあげて信義則違反の有無を論ずべきものとは考えられない。
 そこで右の見地に立って本件をみるのに、控訴人らが本訴を提起したのは前記本件免職の時から約八年を経過した後のことであり、八年の年月は確かに決して短いとはいえないし、また本件の証拠上その間において控訴人らが免職の効力を争う訴訟を提起することを妨げるような特段の事由があったことも窺われないけれども(もっとも控訴人X2については、《証拠略》によれば、同控訴人は昭和二七年ころいわゆる辰野事件について起訴され、その公判への対処に相当の精力を注がなければならないという事情があったことが認められるが、そのために本件免職の効力を争う訴訟の提起が実際上不可能であったとまでは認めることができない。)、他方《証拠略》によると、控訴人らが右のように本件免職後早期にその効力を争う訴訟を提起しなかったことについては、右免職がそれぞれ定員法による免職またはいわゆるレッドパージによるそれとして行われたものであること及び当時の労働情勢その他の社会的政治的情勢が大きな要因をなしており、控訴人らとしては決して免職に対する不服意思を放棄したわけではなく、その後客観情勢の変化に伴って改めて当初の不服意思を貫く決意を固め、本訴提起に及んだことが窺われるのであって、これらの事情に照らすときは、控訴人らの訴訟不提起をもって直ちに全面的にその責に帰すべき事由による権利行使の懈怠であると断ずることはできず、たとえ上記のように訴訟不提起の期間が八年の長期に及ぶことをしんしゃくしても、なお本訴における控訴人らの免職無効の主張を信義則に反し許されないものとするには足りないというべきである。