全 情 報

ID番号 00056
事件名 雇用関係存続確認等請求事件
いわゆる事件名 日本医科大学事件
争点
事案概要  大学付属病院で勤務する看護婦の養成を目的として設置された看護学院の卒業生が、卒業後国家試験に合格したけれど、付属病院に採用されなかったので、雇用契約上の権利を有することの確認、予備的に不法行為を理由とする損害賠償を請求した事例。(請求棄却)
参照法条 日本国憲法14条,19条,21条
労働基準法3条
体系項目 労基法の基本原則(民事) / 均等待遇 / 雇い入れと均等待遇
労基法の基本原則(民事) / 均等待遇 / 信条と均等待遇(レッドパージなど)
労働契約(民事) / 成立
裁判年月日 1976年9月8日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和47年 (ワ) 501 
裁判結果 棄却(控訴)
出典 時報840号116頁
審級関係
評釈論文
判決理由  〔労基法の基本原則―均等待遇―雇い入れと均等待遇、信条と均等待遇(レッドパージなど)〕
 憲法第一四条は、国民は法の下に平等であって信条等によって差別されないことを規定し、憲法第一九条および第二一条は、国民の思想、良心、集会、表現等の自由を保障することを規定しているが、これらの規定は、その歴史的沿革等からみて、本来的には国または公共団体と国民との関係を規律する規定であって、国民相互の関係を直接規律する規定ではないというべきである。また、憲法第二七条は、国民が勤労の権利を有することを認め、その勤務条件に関する基準を法律で定めるべきものと規定しており、そして、労働基準法第三条は、この規定および憲法第一四条、第一九条等の精神に基づき、使用者は労働者の信条等を理由として賃金その他の労働条件につき差別的取扱いをしてはならないと規定しているが、労働基準法のこの規定は、その立法趣旨および用語例等からみて、雇用契約等の契約関係の成立後における労働者の労働条件についての制限規定であって、雇用契約等の契約関係の成立自体を制約する規定ではないと解すべきである。したがって、被告による原告らの不採用が仮に原告らの行なった自治会活動等やその思想、信条を理由とするものであったとしても、その他にこれを違法とすべき特別の事情の認められないかぎり、その不採用が当然に不法行為となるものではないというべきである。
 〔労働契約―成立〕
 これらの事実に照らして判断すれば、看護学院は、他の一般の学校と変りのないものであって、一般の企業における工員の養成施設とはその性格を全く異にするものであるといわなければならない。したがって、看護学院の設置の目的やその性格から、原告らの学院入学の際被告と原告らとの間に主位的請求原因(二)に記載のような雇用契約が当然に成立していると解することは困難であるといわなければならない。
 (中 略)
 原告らが右に主張しているような事実の存在することから直ちに、原告らの学院入学の際被告と原告らとの間に雇用契約が成立したことまたはその成立を裏付ける慣習が存在したことを推認することはできないものというべきである。
 (中 略)
 学院の教務主任等が、前記認定のとおり学院の入学者に対して奨学資金の貸与を受けるよう説得し、また、卒業後付属病院に勤務するよう勧誘しなければならなかったという事実は、却って原告らの学院入学の際被告と原告らとの間に何らの雇用契約等も成立していなかった事実を推認させるものであるといわなければならない。けだし、もし原告らの学院入学の際被告と原告らとの間に何らかの雇用契約が成立しているとすれば、学院の教務主任等がさらにそのうえ原告らに対して卒業後付属病院に勤務するよう勧誘することは無用であるといわなければならないからである。《証拠略》によれば、被告は、原告らと同時に学院を卒業する本科五期生(の一部)を付属病院の看護婦として採用するに当たっては、一期生から四期生までの場合とは異なり、事前に付属病院の看護婦としての適格性を判定するための採用試験を実施することにしたこと、そして、被告は、前記のとおり、このことを昭和四六年七月二〇日に原告らに通告したこと、これに対し、原告らは、前記のとおりこの通告に応じて、同月二一日に健康診断を、同月二二日に面接および作文の採用試験を受けたことが認められるから、被告が昭和四六年七月二〇日に原告らに対してなした通告は、原告らがそれに応募すれば被告が原告らを当然に付属病院の看護婦に採用するという雇用契約締結の申込みの意思表示ではなくして、被告が付属病院の看護婦の採否判定のための試験を行なうので原告らにおいてそれに応募してほしいという趣旨の採用試験実施の通告であり、いわば雇用契約締結の誘引にすぎなかったものと解するのが相当である。したがって、原告らがこの通告に応じて同月二一日に健康診断を、同月二二日に面接および作文の採用試験を受けたことは、雇用契約締結の申込みに対する承諾の意思表示ではなくして、雇用契約締結の申込みをしたにすぎなかったものと解すべきである。そして、《証拠略》によれば、被告は、その後昭和四六年一〇月一九日に、原告らに対し、付属病院の看護婦としての採用を見合せることにした旨通告し、原告らの右申込みを拒絶する旨の意思表示をしていることが認められるから、この意思表示によって右申込みはその承諾適格を失い、被告と原告らとの間には結局雇用契約が成立するに至らなかったものと解すべきである。