ID番号 | : | 00059 |
事件名 | : | 損害賠償請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 東京電力塩山営業所事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 共産党員であるか否かを問い質したりしたことにつき、慰藉料の支払を求めた事例。 |
参照法条 | : | 民法1条の2,709条 日本国憲法14条,19条 労働基準法3条 |
体系項目 | : | 労基法の基本原則(民事) / 均等待遇 / 信条と均等待遇(レッドパージなど) |
裁判年月日 | : | 1981年7月13日 |
裁判所名 | : | 甲府地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和49年 (ワ) 143 |
裁判結果 | : | 一部認容(控訴) |
出典 | : | 労働判例367号25頁/労経速報1097号3頁 |
審級関係 | : | 上告審/03919/最高二小/昭63. 2. 5/昭和59年(オ)415号 |
評釈論文 | : | 山口浩一郎・労働経済判例速報1118号14頁/小西国友・季刊労働法122号115頁 |
判決理由 | : | 共産党員かどうかを尋ね、あるいは共産党員でないことにつき文書をもっての表明を求めることは、直接には思想・信条そのものの開示を求めるものとはいえないけれども、政党が特定の思想信条を基盤としてその政治的な理念を実現するために結成された団体であることに鑑みると、政党と思想、信条とは不即不離の関係にあって、特定の政党に所属するかどうかは、当該政党の基盤とする思想、信条に同調するかどうかを意味するものといえるから、結局、被告Yの本件行為は原告の思想、信条の表明を求めたものと解してなんら妨げない。 ところで、思想、信条の不可侵性を規定する憲法一九条は、国もしくは公共団体と個人との関係を規律する規定であって、私人相互の関係について当然に適用ないし類推適用されるものではないと解される(最高大判昭和四八・一二・一二民集二七―一一―一五三六参照)。 しかし、思想、信条は本来内心に属するものの見方ないしは考え方を意味し、右自由に対する保障は人間の尊厳を保持するために不可欠であって、人間存在の根源にかかわるとの重要性に思い至し、また民法一条の二がその解釈基準として個人の尊厳を要求している趣旨に鑑みると、思想、信条の自由は、私人相互の関係においても尊重されるべき契機を本来的に内包しているものといえ、とりわけ、この理は、相互の社会的力関係に相違があって使用者が労働者に優越する労使関係において、より高度の必要性をもって要請されているというべきである。そして、労働基準法三条は、右の趣旨をふまえ、労使の関係に憲法一九条の精神を具体化して、使用者は労働者の信条等を理由として賃金、労働時間その他の労働条件について差別的取扱をしてはならない旨を規定し、もって雇用関係が成立した後の労働者の思想信条の自由を労働条件の差別的取扱の禁止という形態で保障している。右規定の趣旨に併せ、思想信条の有する前記意味合いに徴すると、雇用関係成立後の労使間においては、労働者の思想信条は、これを理由とする労働条件の差別的取扱の有無にかかわらず、それ自体において憲法一九条に即して尊重されるべきものであり、そして、右理念は労働基準法三条、民法一条の二の各規定を通じて雇用成立後の労使関係を律する公序として形成され、かつその旨確立されているものと解するのが相当である。 そうだとすれば、憲法一九条が直接に適用されない私的相互関係である労使関係においても、思想、信条の自由は法的に保護されるべき重要な法益に属するものといわなければならない。 もっとも、思想、信条の自由といえども、これを絶対視することは許されないのであって、他の権利ないし保護すべき利益と矛盾衝突する場面においては制限を受けることがあり得ることはいうまでもない。しかし、思想、信条が人間存在の根源にかかわる重要なものであることに併せ、労使関係における相互の力関係の相違等雇用成立後の労使関係において思想、信条の自由が法的に保護さるべき前叙の理由を考慮すると、労使関係において企業の権利もしくは利益との調整において労働者の思想、信条の自由に対する制限が許容されるとしても、それは社会的に相当なものとして許容される場合、換言すれば、これを必要とする合理的な理由に基づき、かつ、その手段、方法において適切である場合であることを要し、そうでない場合は労使関係において形成、確立されている公序に反するものとして違法となると解するのが相当である。 |