全 情 報

ID番号 00073
事件名 労働者災害補償金返還処分取消請求事件
いわゆる事件名 奈良労災保険審査会事件
争点
事案概要  取締役たる原告が作業中手指切断の負傷を負い業務上災害として療養補償等の支給を受けたところ、原告を労働者として認めることはできないため前記補償金を返還されたいとの処分をうけたことに対し右返還処分取消を求めた事例。(請求認容)
参照法条 労働基準法9条,10条
体系項目 労基法の基本原則(民事) / 労働者 / 取締役・監査役
裁判年月日 1952年1月30日
裁判所名 奈良地
裁判形式 判決
事件番号 昭和25年 (行) 8 
裁判結果
出典 労働民例集3巻1号46頁
審級関係
評釈論文
判決理由  右二条事件(労基法九、一〇条―註)の規定と広く同法並びに労災保険法の目的等を考え合せると、事業において使用される者で賃金を支払われる者はすべて労働者であり、取締役である者が同一会社で業務執行外の事務又は労務の一部を担当し、その対価として給与又は賃金を支払われるとき、その一面において労働者として取扱われるべきものと解するを相当とする。取締役が右の如く業務執行外の事務又は労務に服し、これに対し給与を受くる契約をなし、これに従事することは労働基準法及び労災保険上許容されている所であり敢てこれを違法と断ずる根拠はない。尤も労働組合法第二条は会社の役員その他使用者の利益代表者の加入を許す労働者の団体は労働組合として取扱わない旨規定し会社の役員その他使用者の利益代表者は組合員たり得べき労働者でないことを明かにしているが、右規定の趣旨は労働組合の自主性を確立させるにあって実際労働に服する労働者の保護を目的とする労働基準法、労災保険法において、労働者として取扱うべき者の範囲を労働組合の組合員たり得べき労働者に限定すべき理由は存しないのである。労働基準法、労災保険法においては、その法の目的に適合する如く労働者の意義を定むるのが妥当であり、取締役と雖も、一労働者として実際労務に服する場合、各種の危険にさらされ災害をこうむることがあるのは自己の会社であると否とを問わず、全く同一であり、唯その者が自己の会社に勤務するの故を以てこれに対し労働者として労災保険法の保護を拒否する理由はない、本件において原告はA会社に取締役として名を連ねている者であるが他の一面において前記認定の如く原告がA会社から賃金を支払われる労働者である以上労災保険法上の労働者として認めるのが相当であると考える。