全 情 報

ID番号 00079
事件名 就業規則の改正無効確認請求控訴事件
いわゆる事件名 秋北バス事件
争点
事案概要  管理職には定年制がなかったところ、主任以上五五歳定年制を就業規則で新たに定め、営業所次長に適用したことに対し、就業規則の改正無効確認請求がなされた事例。
参照法条 労働基準法89条,93条
体系項目 就業規則(民事) / 就業規則の法的性質・意義・就業規則の成立
就業規則(民事) / 就業規則の一方的不利益変更 / 定年制
就業規則(民事) / 就業規則の適用対象者
裁判年月日 1964年10月26日
裁判所名 仙台高秋田支
裁判形式 判決
事件番号 昭和37年 (ネ) 65 
裁判結果
出典 労働民例集15巻5号1137頁
審級関係 上告審/01480/最高大/昭43.12.25/昭和40年(オ)145号
評釈論文 川口実・季刊労働法59号89頁/蓼沼謙一・新版労働判例百選〔別冊ジュリスト13号〕36頁
判決理由  〔就業規則―就業規則の法的性質、就業規則の一方的不利益変更―定年制〕
 しかし、本件就業規則の改正は、控訴会社の労働者中大部分を占めると思われる主任以上の職にある者以外の者にとって格別の不利益をもたらすものでない(これらの者には、すでに五〇歳停年制が施行されている)し、主任以上の職にある者にとっても、比較的若年の者は本件就業規則の改正により老令者を早く退職させることにより自ら昇進の道が開けてくるという意味で、またあるいは、停年制がある場合は特別の事情のない限り停年までは雇用関係を継続するという身分保証の意味ないし機能をもっているとも考えられる点で、それは必ずしも一概に不利益であると断定するのは疑問であるといわなければならない。そして、特別の事情(たとえば退職金の点で有利な取扱いを受けるなど)の認められない本件においては、本件就業規則の改正が既存の労働契約に年令的制限を加え、停年制のない場合においては年令的限界をこえても雇用が継続される可能性を一率、無差別に奪うという意味において、被控訴人らを含む主任以上の職にある者にとり不利益な改正であるとしても、それだけでは、本件就業規則の改正が被控訴人らを含む主任以上の職にある者の同意がない以上不可能であり、その同意をしていない被控訴人らに対し効力をおよぼさないものと解することはできない。けだし、就業規則は使用者が経営権に基き所定の手続を経て自由に制定、変更することのできる経営内法規であって、このことは労働基準法第九章所定の各条項の文言に照してあきらかであると考えられる(この点につき最高昭和二七年七月七日第二小法廷決定、民集六巻七号六三五頁参照、なお、被控訴人も昭和三八年一月二八日付準備書面においてこれを認めている)ところ、その制定、変更される規則の内容が労働条件その他労働者の待遇に関する部分であつても、またあるいは、その制定、変更される態様が労働者にとって、ことにその一部の個々の労動者にとって不利益であっても、この使用者が自由に制定、変更でき、そしてその規定内容にしたがって労働者を拘束する経営内法規であるという就業規則の本質が失われるとすべき法律上および実質上の根拠がないからである。
 〔就業規則―就業規則の適用対象者〕
 しかし、労働基準法上の「使用者」「労働者」という概念は、問題となる具体的な場合に対応して定められる相対的概念であって、被控訴人が前記のように労働基準法第一〇条にいわゆる「使用者」に該当するとしても、それは大館営業所管下労働者に対する関係において同条にいわゆる「使用者」とされるに過ぎない。そして、控訴会社の制定する就業規則の適用が問題になっている本件においては、その就業規則の適用を受ける「労働者」かどうかは事業主たる控訴会社との関係において考察すべきところ、被控訴人は大館営業所次長として控訴会社に雇用され控訴会社に対して使用従属関係にあるものであるから、被控訴人は控訴会社に対しては「労働者」であるというべきであり、控訴会社の制定する就業規則の適用を受けない地位にあるものとはいえない。したがって、この点に関する被控訴人の主張は採用できない。