ID番号 | : | 00100 |
事件名 | : | 地位保全仮処分申請事件 |
いわゆる事件名 | : | 旭川大学事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 私立大学によって契約期間を二年とする嘱託専任講師に任用された者が、契約期間の満了時において担当科目の廃止を理由に契約更新を拒否した大学に対して、教員たる仮の地位の保全を求めた事例。(申請却下) |
参照法条 | : | 労働基準法9条,21条 民法628条 |
体系項目 | : | 労基法の基本原則(民事) / 労働者 / 大学助手・講師・教師 労働契約(民事) / 労働契約の期間 解雇(民事) / 解雇事由 / 企業解散・事業の一部廃止・会社制度の変更 解雇(民事) / 短期労働契約の更新拒否(雇止め) |
裁判年月日 | : | 1978年12月26日 |
裁判所名 | : | 旭川地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和53年 (ヨ) 49 |
裁判結果 | : | 却下 |
出典 | : | 労働民例集29巻5・6合併号957頁/時報919号108頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | 小西国友・ジュリスト726号150頁 |
判決理由 | : | 〔労基法の基本原則―労働者―大学助手・講師〕 債務者が、労働基準法第八条第一二号所定の教育及び研究の事業を行う者であることは明らかであるところ、《証拠略》によれば、債権者は、毎週、債務者から定められた日に、定められた時間講義を担当してきたものであること及び出勤簿への捺印等も義務付けられていたことが認められ、右事実によれば、少なくとも、債権者は、講義の時間等債務者の業務を遂行している間、その指揮監督下に置かれており、したがって、債務者に使用されていたものというべく、また、債権者が債務者から賃金の支払を受けていたことは、後記のとおり当事者間に争いがないから、債権者が、同法第九条にいう労働者に該当することは明らかである。したがって、本件契約は、同法第二章に定める労働契約というべきである。 〔労働契約―労働契約の期間〕 〔解雇―短期労働契約の更新拒否(雇止め)〕 ところで、一年を超える期間を定めた労働契約は、労働基準法第一四条、第一三条により、一定の事業の完了に必要な期間を定めるもののほかは、期間が一年に短縮されるが、その期間満了後労働者が引き続き労務に従事し、使用者がこれを知りながら異議を述べないときは、民法第六二九条第一項により、黙示の更新がされ、以後期間の定めのない契約として継続されるものと解すべきである。 そこで、右説示に照らして審按するに、債務者は、本件契約は、日本経済史の領域を担当する専任教員が得られるまでの期間、二年間を予定して、暫定的、一時的に、債権者が日本経済史の講義を担当することを目的として締結されたもので、一定の事業の完了に必要な期間を定めたものに該当する旨主張するが、日本経済史の講義が二年間で完了する事業といえないことは明らかであるから、右主張は、それ自体失当であるし、仮に専任教員が採用されるまでの間暫定的に雇用されたものであるとしても、それは、臨時的な雇用であることを意味するに止まり、一定の事業の完了に必要な期間を定めるものでないことはいうまでもないから、本件契約の期間は、一年に短縮されたものというべきである。そして、債権者が、本件契約締結後一年間を経過した昭和五二年四月一日以降も引き続き債務者の教員及びA大学経済学部嘱託専任講師としてその労務に従事し、債務者が、これを知りながら異議を述べなかったことは、当事者の各主張に照らし、当事者間に争いのないものと認められるから、本件契約は、前同日以降、期間の定めのないものとして更新されたものというべきである。 〔解雇―解雇事由―企業解散・事業の一部廃止〕 3 以上争いのない事実及び認定の事実によれば、債権者において、昭和五三年度以降も引き続き嘱託専任講師としての地位を保有し得るものと期待したであろうことは否定できないが、一方、嘱託専任教員制度自体、いわば臨時的な雇用体制であって、嘱託専任教員は、本来的意味の専任教員とは異なるものであることはもとより、専任教員となるためには公募による採用以外に途はなく、嘱託専任教員からこれに昇格するということは予定されておらず、その期間二年の定めにしても、前記のとおり、そのまま効力を有するとはいえないものの、債権者もこれを了解したうえで嘱託専任講師に就任したものであり、債権者が嘱託専任教員に任じられた主な理由も、日本経済史を担当する専任教員が昭和五三年度において新たに採用されたことによって失われており、更に、各年度ごとの開講科目を何にするかは、本来大学の裁量にゆだねられるべき事項であると解せられるところ、A大学においては、昭和五三年度において、債権者が専門領域とする人類学を開講しないことに決定したものであり、これら事実を総合すると、債務者が、債権者を解雇したことには、一応合理的な理由があるものというべく、未だこれをもって信義則違反又は権利の濫用であるとは断じ得ず、他にこれを肯認するに足りる資料はない。 (中 略) 五 以上のとおりであるから、債権者は、昭和五三年四月六日までは債務者の教員たる地位を有したが、その後はその地位を有しないというべきである。 |