全 情 報

ID番号 00108
事件名 退職金請求事件
いわゆる事件名 扶桑電気工業・東欧電気事件
争点
事案概要  二つの会社の取締役の地位にあった者が、その退職にあたって右二社に対し、それぞれの役員退職慰労金規定に基づく取締役退職慰労金とそれぞれの従業員としての退職金の支払を求めた事例。(一部認容)
参照法条 労働基準法9条,11条,24条,89条1項3号の2
商法269条
体系項目 労基法の基本原則(民事) / 労働者 / 取締役・監査役
賃金(民事) / 退職金 / 退職金請求権および支給規程の解釈・計算
裁判年月日 1984年6月5日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和55年 (ワ) 1846 
裁判結果 一部認容
出典 労経速報1193号16頁/労働判例433号15頁
審級関係
評釈論文 香川孝三・ジュリスト851号143頁/山口浩一郎・労働経済判例速報1220号27頁
判決理由  〔労基法の基本原則―労働者―取締役・監査役〕
 原告が被告Y会社の設立当初からその取締役であったことは前記のとおりである。ところで、株式会社の取締役がその会社の従業員の地位を兼任することができるか否かについて考えてみると、株式会社の代表者又は執行機関のように、事業主体である会社との関係において使用従属の関係に立たない者は従業員ではないが、取締役であっても業務執行権又は代表権を持たない者が工場長、部長等の職にあって賃金を受ける場合には、その限りにおいて従業員であると解される。
 そして、(人証略)及び原告本人尋問の結果(第一、二回)によれば、原告は、被告Y会社設立と同時に取締役に就任し、同時に経理課長となり、その後営業部長、総務部長、電球製造部長を兼ね、代表取締役Aの指揮の下にそれぞれの業務を担当したこと、昭和二八年一月から同四六年六月までの間被告Y会社は株式会社とはいっても、代表取締役のAがその株式の大部分を保有し、株主総会も一回も開かれないという実質的にはAの個人企業と変りがない企業であり、原告もAの指揮命令を受けて営業部長等の職務を遂行していたことが認められ、この認定に反する証拠はないから、原告は、昭和二八年一月六日から代表取締役に就任した昭和四六年六月一二日までの間は、従業員の地位をも有していたと認めるのが相当である。
 〔賃金―退職金―退職金請求権および支給規程の解釈・計算〕
 退任取締役が従業員の地位を兼任していて従業員の地位を失った場合には、従業員に対する退職金の支給規定が存在し、その支給規定に基づき支給されるべき従業員としての退職金部分が明白であれば、この部分に対しては商法二六九条の規定の適用はないと解される。